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そして勇者は選んだ
62 帰ろう
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雷が止まったのを見計らい、一緒に来ていた仲間が駆け寄ってきた。
「ユーゴー。無事か?」
「今のは……」
「天罰」
俺は、十歳くらいの体格の子どもを抱いたまま、ペタンと床に座る。
ああ、背中が痛い……。
「天罰?」
「天罰だって?」
勇者が、本物の天罰を受けてるなんてね。神の真意なんて聞かないでくれよ。どうしても知りたいなら、後で皆で、教会に行って神官に聞いてみよう。
セナが治癒魔法をかけても、俺が天罰を受けた背中の火傷は治らなかった。セナの魔力が減ってもいないらしい。
「も、もう一回」
「セナ、もういい。魔力が切れたら困る」
今、光の腕輪は俺の腕にあるから、治癒が始まってしまったら、魔力じゃ足りないかもしれない。我慢できる程度の傷だから、気にしないで。
「でも……」
「早くここを出よう」
「その通りだな」
セナがめくっていた俺の服を、ムスカがそっと下ろした。
「動けるんだろ、ユーゴー?」
「もちろん」
「なら、手当ては帰ってからだ。その子に飯も食わせたい」
そう言いながら、水袋をそっと差し出す。水が入っているそれを、魔王にならなかった子どもは、じっと見つめた。
「分かんないか?水だ。大丈夫だぞ」
ムスカは水袋に口をつけて、少し飲んでみせた。それから、子どもの口にその飲み口をそっと当てる。少し傾けると、びくっとした後、ごくっと喉が動いた。ぱちぱちと目を瞬かせて、俺の服を掴んでいた手が水袋に伸びる。
子どもは、水袋を手渡されて、一気に煽った。口の端から溢れさせながら、必死で飲む。飲むのが間に合わなくなってむせるまで、口から離さなかった。
「喉、渇いてたんだなあ。取らねえよ。誰も取らねえから、ゆっくり飲め」
ムスカの手が、咳き込みながらもなお飲もうとする子どもの背中を擦り、ばさばさで汚れた子どもの髪を優しく撫でる。
「なあ、ユーゴー。これが、魔王なのか」
「うん。俺が勇者だったとき、魔王だったと思う」
「お前、勇者やめるんだっけ?」
「うん」
「じゃ、魔王もやらなくてもいいな」
「うん」
ムスカは撫でていた手で、子どもを優しく抱き上げてくれた。水袋を大切に抱えた子どもは、大人しくムスカに抱かれている。
背中の火傷が痛くて、立ち上がるのも辛いから助かった。
「つっ。痛って……」
「ユーゴー。やっぱりもう一回治癒を……」
立ち上がって思わず漏らした言葉に、セナが反応する。と、体がひょいと浮き上がった。
「とりあえず、ここは臭すぎる。出るぞ」
身体強化したマールクが、俺を軽々と横抱きにして、歩き始めた。こんなことされたことないから、手をどこに置いたらいいのか分からない。首に捕まってろ、と言われてそうすると、少し体が楽になる。
むっとした顔で付いてくるセナを視界に入れながら、王城を後にした。魔王を抱いたムスカの周りには魔物が寄ってこない。
もう後は、帰るだけだった。
「ユーゴー。無事か?」
「今のは……」
「天罰」
俺は、十歳くらいの体格の子どもを抱いたまま、ペタンと床に座る。
ああ、背中が痛い……。
「天罰?」
「天罰だって?」
勇者が、本物の天罰を受けてるなんてね。神の真意なんて聞かないでくれよ。どうしても知りたいなら、後で皆で、教会に行って神官に聞いてみよう。
セナが治癒魔法をかけても、俺が天罰を受けた背中の火傷は治らなかった。セナの魔力が減ってもいないらしい。
「も、もう一回」
「セナ、もういい。魔力が切れたら困る」
今、光の腕輪は俺の腕にあるから、治癒が始まってしまったら、魔力じゃ足りないかもしれない。我慢できる程度の傷だから、気にしないで。
「でも……」
「早くここを出よう」
「その通りだな」
セナがめくっていた俺の服を、ムスカがそっと下ろした。
「動けるんだろ、ユーゴー?」
「もちろん」
「なら、手当ては帰ってからだ。その子に飯も食わせたい」
そう言いながら、水袋をそっと差し出す。水が入っているそれを、魔王にならなかった子どもは、じっと見つめた。
「分かんないか?水だ。大丈夫だぞ」
ムスカは水袋に口をつけて、少し飲んでみせた。それから、子どもの口にその飲み口をそっと当てる。少し傾けると、びくっとした後、ごくっと喉が動いた。ぱちぱちと目を瞬かせて、俺の服を掴んでいた手が水袋に伸びる。
子どもは、水袋を手渡されて、一気に煽った。口の端から溢れさせながら、必死で飲む。飲むのが間に合わなくなってむせるまで、口から離さなかった。
「喉、渇いてたんだなあ。取らねえよ。誰も取らねえから、ゆっくり飲め」
ムスカの手が、咳き込みながらもなお飲もうとする子どもの背中を擦り、ばさばさで汚れた子どもの髪を優しく撫でる。
「なあ、ユーゴー。これが、魔王なのか」
「うん。俺が勇者だったとき、魔王だったと思う」
「お前、勇者やめるんだっけ?」
「うん」
「じゃ、魔王もやらなくてもいいな」
「うん」
ムスカは撫でていた手で、子どもを優しく抱き上げてくれた。水袋を大切に抱えた子どもは、大人しくムスカに抱かれている。
背中の火傷が痛くて、立ち上がるのも辛いから助かった。
「つっ。痛って……」
「ユーゴー。やっぱりもう一回治癒を……」
立ち上がって思わず漏らした言葉に、セナが反応する。と、体がひょいと浮き上がった。
「とりあえず、ここは臭すぎる。出るぞ」
身体強化したマールクが、俺を軽々と横抱きにして、歩き始めた。こんなことされたことないから、手をどこに置いたらいいのか分からない。首に捕まってろ、と言われてそうすると、少し体が楽になる。
むっとした顔で付いてくるセナを視界に入れながら、王城を後にした。魔王を抱いたムスカの周りには魔物が寄ってこない。
もう後は、帰るだけだった。
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