上 下
180 / 211
そして勇者は選んだ

48 前向きな考え

しおりを挟む
 騎士団長の言葉に、領主は困ったような顔で笑った。

「まあ、そうだな。なるべく穏便にと思い、王族からの急な要請を受け入れたが、まさかただそこに在るだけで贅沢な生活ができ、それを当たり前だと思うような方々だとは、想像もしていなかった。良い勉強になったよ。宰相さまは何と?」 
「金はもう無いそうだ。王族や貴族は、金は天から降ってくるとでも思っているのではないか、と言っていた」

 領主は、マールクの答えに溜め息を吐く。
 真っ赤になって怒りながら、唸り声を上げる王と第二王子をちらりと見やり、領主は言った。

「ライン。騎士団は、すぐに元に戻れるか?冒険者とも協力して、王都からの騎士団を制圧してくれ。先ほどの彼ら冒険者の実力を見れば、容易いことだろう。この屋敷も取り戻して、政務の形を戻す。制圧した騎士や王族、貴族の処遇は、王都からの難民を受け入れた、という体制を作るしか無いだろうな。とりあえず、使える財産などがあれば差し押さえて、食料の購入などに充てよう。身分は全員、難民で良い」
「ぐううううう!」
「うう!ううう!」

 一際大きな唸り声に、全員でそちらを向く。騎士団長は、王と第二王子に聞かせるかのように声を張り上げた。

「姿は冒険者のままですが、すでに隊を編成して、この屋敷の近くに待機させてあります。また、文官の方々も、レイス様と共にこの屋敷へ乗り込むのだと集まっておられたので、その隊の近くで留めております」

 護衛を連れていたとはいえ、一人で屋敷へ乗り込んできた領主は、苦笑いをこぼした。

「もし、こうして屋敷へ、資料の書類を取りに来るだけのことで処刑されるのなら、私だけにしたいと思ったんだよ。皆に心配をかけたね。後は頼む。これからのことを話し合わなくてはいけないから、皆を連れてきてくれるかい?」
「はっ」

 返事をした騎士団長は、俺たちを見て、領主さまを頼む、と言った。

「え?」
「騎士団から一人は残していくが、しばらく領主さまの護衛を頼む」
「あ、ああ。分かった」

 すぐに駆け付けられる距離に、たくさんの人が待っている領主と、縛り上げられるのを目の前で見たのに、未だ誰の助けも来ない王と王子。唸り声も、廊下に聞こえているだろうに。
 報酬が出ないから?領主は、報酬をくれるから?
 いや、違うな。
 俺たちは今、護衛を頼まれたけれど、報酬の話はされていない。けれど、あっさり引き受けた。この人を守ろうと思った。
 そういうことか。
 俺は、神に命じられ、王に報酬を貰って、仕事として勇者をしていたが、そこに感情は無かった。うっすらあるとすれば、嫌だった。だから、生まれ直してから今まで、勇者をするつもりなんてこれっぽっちも無かったけれど。
 この人が助かった、と言ってくれて、褒めてくれるなら、やってみてもいい。



 
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

罰ゲームから始まる陰キャ卒業

negi
BL
陰キャな男子高校生が学校での自分の境遇を変えようとしてちょっとだけ頑張るお話です。

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...