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そして勇者は選んだ
46 食事は空から降ってこない
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執務室へ入り込んでいた騎士は、領主の連れてきた冒険者たちに廊下へ追い出された。そのまま、執務室の中と扉の前で護衛として立つ。
「しばらくこの部屋へは出入りしないですか?」
セナが確認を取ってから、詠唱して結界を張った。光の魔力が扉の辺りを包むのを、廊下に追い出された騎士たちが息を飲んで見守る。
「出入りしたいときには、俺に声をかけてください」
と言って、俺たちは歩き出した。廊下の騎士たちは、どうしたら良いのかというように宰相を見ていたが、宰相の目には止まっていない。
「ここを出て……どこへ……」
周りも見えず、ぶつぶつ呟く宰相と俺たち四人で、ここへ来て最初に通された部屋へ戻った。宰相付きの護衛なのだろう騎士は二人、付いてきた。やることが分からないでうろうろしているより、するべき仕事が分かっている方がいいよな。
「俺たちは、お触れを取り下げてもらえればそれでいいので、もう特に話はありませんが」
座るように言われたマールクが、冷たく言い放つ。
「待て。お前たちは勇者パーティなのだろう?」
「そんなつもりは微塵もありません。ユーゴーはまだ成人してもいない。俺たちのことは放っておいてください」
「勇者や聖者は国に所属するものだ。お前たちは……」
宰相が、何故か調子を取り戻して話している。俺は、ははっと笑ってしまった。
「な、なんだ?」
「俺たちが所属しなくちゃならない国ってどこにあるの?」
「え?」
そこでまたようやく、自分たちの行き場所が無いことを思い出したらしい。
「ここを出る……」
「ここだけじゃないですよ?全ての建物から出てくださいよ?」
「どこへ……。」
「帰るしかないでしょう?」
「しかし、王都は……」
「魔物の群れなら倒しました。護衛の依頼なら受けますが、先払いでないとやりません」
「……そうだな」
「すごく普通に聞きたいんだけど」
宰相とマールクの、あまり熱のこもらない話に、セナが口を挟んだ。
「王族や貴族って、とてもお金持ちでしょう?馬車に色々と積んできたって聞いたよ。何でお金が無いの?」
「収入が無い。あっという間に、金として持ってきたものは底をついた。だというのに、王や王妃、王子も王女も、今まで通りの生活を求められる。食事は空から降ってくるとでも思っているのだろう。金は地から湧いてくると思っているのだろう」
「へえ……」
全く理解できない声音でセナは答えた。
俺にも全然分からないよ。
「まあ、いいや。領主さまに結界をかけて帰ろう」
「そうだな、扉に結界をかけると出入りが面倒臭いもんな」
「うん」
俺とセナに、マールクとガウナーも賛成してくれて、お触れが撤回された町の見回りに回ることにした。
宰相に付き合ってる時間ももったいない!
「しばらくこの部屋へは出入りしないですか?」
セナが確認を取ってから、詠唱して結界を張った。光の魔力が扉の辺りを包むのを、廊下に追い出された騎士たちが息を飲んで見守る。
「出入りしたいときには、俺に声をかけてください」
と言って、俺たちは歩き出した。廊下の騎士たちは、どうしたら良いのかというように宰相を見ていたが、宰相の目には止まっていない。
「ここを出て……どこへ……」
周りも見えず、ぶつぶつ呟く宰相と俺たち四人で、ここへ来て最初に通された部屋へ戻った。宰相付きの護衛なのだろう騎士は二人、付いてきた。やることが分からないでうろうろしているより、するべき仕事が分かっている方がいいよな。
「俺たちは、お触れを取り下げてもらえればそれでいいので、もう特に話はありませんが」
座るように言われたマールクが、冷たく言い放つ。
「待て。お前たちは勇者パーティなのだろう?」
「そんなつもりは微塵もありません。ユーゴーはまだ成人してもいない。俺たちのことは放っておいてください」
「勇者や聖者は国に所属するものだ。お前たちは……」
宰相が、何故か調子を取り戻して話している。俺は、ははっと笑ってしまった。
「な、なんだ?」
「俺たちが所属しなくちゃならない国ってどこにあるの?」
「え?」
そこでまたようやく、自分たちの行き場所が無いことを思い出したらしい。
「ここを出る……」
「ここだけじゃないですよ?全ての建物から出てくださいよ?」
「どこへ……。」
「帰るしかないでしょう?」
「しかし、王都は……」
「魔物の群れなら倒しました。護衛の依頼なら受けますが、先払いでないとやりません」
「……そうだな」
「すごく普通に聞きたいんだけど」
宰相とマールクの、あまり熱のこもらない話に、セナが口を挟んだ。
「王族や貴族って、とてもお金持ちでしょう?馬車に色々と積んできたって聞いたよ。何でお金が無いの?」
「収入が無い。あっという間に、金として持ってきたものは底をついた。だというのに、王や王妃、王子も王女も、今まで通りの生活を求められる。食事は空から降ってくるとでも思っているのだろう。金は地から湧いてくると思っているのだろう」
「へえ……」
全く理解できない声音でセナは答えた。
俺にも全然分からないよ。
「まあ、いいや。領主さまに結界をかけて帰ろう」
「そうだな、扉に結界をかけると出入りが面倒臭いもんな」
「うん」
俺とセナに、マールクとガウナーも賛成してくれて、お触れが撤回された町の見回りに回ることにした。
宰相に付き合ってる時間ももったいない!
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