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そして勇者は選んだ
22 それは自分の意思
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「それがどうした?」
予想通りの答えに、これ以上の対話は無駄だと俺は思った。人との関わりの薄かった前世と違い、心のうちには様々な感情が渦巻く。
世の中は複雑で、話が合う者と合わない者がいる。どんなに言葉を尽くしても、聞こうとしない者の耳に届くことはないのだろう。
「その場しのぎの方策では、やがて国は魔物に飲まれて消えてしまいます。今すべきことは、協力しあって魔物の群れを殲滅することではありますまいか?」
「勇者が、いずれ魔物を全て払ってくれることであろう。我らはその日まで、生きて陛下をお守りすることこそ使命」
「いるかどうかも分からない勇者に託している暇など無い!」
「神託は下りている。聖者もすでに降臨されているのだ」
ギルドマスターの溜め息。
マスター。俺は、あいつらのためでなく町の人々のためなら剣を取るよ?暮らしやすいこの町が好きだから。でも、手伝ってくれたら助かるな。群れを相手にするのは大変だから。
俺が前に出ようとすると、セナに掴まれていた手を引かれた。逆に、セナが一歩前に出る。
「俺は、皆で討伐する案に賛成する」
「セナ?」
「なんだ、この子どもは?」
「神託の」
「セナ!」
「聖者」
「なん、だと……?」
騎士は、セナを上から下まで眺めて、腰に下げた剣に手をかけた。
「王命に背いて逃げた聖者か」
「俺は、人々を救うためにある。冒険者として、人の役に立つことこそ聖者としての務めだ。冒険者として、ギルドマスターの決定に従う」
おおおお、と建物内が揺れた。冒険者たちの喜びの声だ。
「帰れ」
「お前らの力なんて借りねえよ」
「俺たちが国を救ってやる」
声と圧力に押されて、騎士はじりじりと後退りする。
「居場所は分かった、また来る」
そう言って逃げていった。
「セナ、お前……」
「せっかくの能力なら、助けたいと思う人のために使いたい。勝手に決められた役割りだけど、隠して暮らしていたって、魔物は消えてはくれないんだ。命令されてやるくらいなら、自分の意思でやる」
ギルドマスターの言葉は、セナの明るい声に遮られる。
自分の意思で。
そうだな。同じことをするにしても、神の意思だとか、王の命令だとか、それに動かされてやっているよりは、自分の意思でやりたい。
そして俺も。
まだ、神託は下りていない。
勇者の剣も手にいれてはいない。
俺が勇者だと知ってる者は俺が打ち明けたセナとセナの家族だけ。それも、神の証明はなく、自称でしかない。
けれど、俺は俺が勇者だと知っている。人並み外れた魔力と膂力を持っている。
ここの人たちと共になら、その力を使ってもいい。守りたい。護りたい。俺とセナとマールクとガウナーの小さな家を。その家があるこの町を。この町に住む人を守ろうとしている人々を。今は離れて暮らしている家族を。
「俺も、やる。魔物の群れと戦おう」
予想通りの答えに、これ以上の対話は無駄だと俺は思った。人との関わりの薄かった前世と違い、心のうちには様々な感情が渦巻く。
世の中は複雑で、話が合う者と合わない者がいる。どんなに言葉を尽くしても、聞こうとしない者の耳に届くことはないのだろう。
「その場しのぎの方策では、やがて国は魔物に飲まれて消えてしまいます。今すべきことは、協力しあって魔物の群れを殲滅することではありますまいか?」
「勇者が、いずれ魔物を全て払ってくれることであろう。我らはその日まで、生きて陛下をお守りすることこそ使命」
「いるかどうかも分からない勇者に託している暇など無い!」
「神託は下りている。聖者もすでに降臨されているのだ」
ギルドマスターの溜め息。
マスター。俺は、あいつらのためでなく町の人々のためなら剣を取るよ?暮らしやすいこの町が好きだから。でも、手伝ってくれたら助かるな。群れを相手にするのは大変だから。
俺が前に出ようとすると、セナに掴まれていた手を引かれた。逆に、セナが一歩前に出る。
「俺は、皆で討伐する案に賛成する」
「セナ?」
「なんだ、この子どもは?」
「神託の」
「セナ!」
「聖者」
「なん、だと……?」
騎士は、セナを上から下まで眺めて、腰に下げた剣に手をかけた。
「王命に背いて逃げた聖者か」
「俺は、人々を救うためにある。冒険者として、人の役に立つことこそ聖者としての務めだ。冒険者として、ギルドマスターの決定に従う」
おおおお、と建物内が揺れた。冒険者たちの喜びの声だ。
「帰れ」
「お前らの力なんて借りねえよ」
「俺たちが国を救ってやる」
声と圧力に押されて、騎士はじりじりと後退りする。
「居場所は分かった、また来る」
そう言って逃げていった。
「セナ、お前……」
「せっかくの能力なら、助けたいと思う人のために使いたい。勝手に決められた役割りだけど、隠して暮らしていたって、魔物は消えてはくれないんだ。命令されてやるくらいなら、自分の意思でやる」
ギルドマスターの言葉は、セナの明るい声に遮られる。
自分の意思で。
そうだな。同じことをするにしても、神の意思だとか、王の命令だとか、それに動かされてやっているよりは、自分の意思でやりたい。
そして俺も。
まだ、神託は下りていない。
勇者の剣も手にいれてはいない。
俺が勇者だと知ってる者は俺が打ち明けたセナとセナの家族だけ。それも、神の証明はなく、自称でしかない。
けれど、俺は俺が勇者だと知っている。人並み外れた魔力と膂力を持っている。
ここの人たちと共になら、その力を使ってもいい。守りたい。護りたい。俺とセナとマールクとガウナーの小さな家を。その家があるこの町を。この町に住む人を守ろうとしている人々を。今は離れて暮らしている家族を。
「俺も、やる。魔物の群れと戦おう」
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