147 / 211
そして勇者は選んだ
15 撃退
しおりを挟む
「素手の、暴れている訳でもない相手に抜剣するなんて、騎士を名乗る資格も無い!」
剣を抜いた奴らに、ガウナーが吠えた。普段、穏やかで無口だと思っていたガウナーが、こんなに声を荒げるなんて!
「黙れ。王命に背く逆賊ども。」
「俺たちを連れて行かなくちゃいけないんじゃないの?傷付けていいの?」
セナが挑発するとは思えないから、純粋な疑問を口にしただけなんだろうなあ。相手には、煽りの言葉に聞こえてるに違いない。
「騎士は、王に従うもの。王命に背くものはすべて敵である。」
「俺たちを倒したらあなたが、俺たちを王都に連れてこいって命令に背くことにはならない?」
「ぐぅ。」
ぐうの音も出ないという言葉があるが、ぐうの音は出たようだ。
そんなセナと騎士とのやり取りの間に、マールクとガウナーは部屋へ戻り武器を手にしていた。
「王都には冒険者の生きていく術がない。冒険者である俺たちが王都にいられなくしたのは、そちらだ。」
ギリオンがいつの間に出したのか短剣を手にして言った。長年、王都の冒険者たちを守ってきたマスターの言葉は重い。近年は、幾人もの有能な冒険者をこの町に逃がしたのだと、苦渋の表情で言っていた。まるで王都を見捨てるような行動を、したくはなかったに違いない。
『金糸銀糸を縦横に織り纏い纏わせ我の仲間の護りと為す』
セナの詠唱に、部屋の中を光が舞う。部屋の中にいる人間の周りを光の糸が無数に舞って、数秒で消えた。その守りの素晴らしさは変わらないまま、詠唱は少し短くなった気がする。
身構えている騎士団には悪いが、もうこれで攻撃がこちらに届くことはあるまい。巻き込まれただけの大家さんも大丈夫だろう。
「い、家を壊さんでくれよ。」
「もちろん。」
俺とマールクの声が重なった。家を壊さず、人も殺さず、従わず……。難しいな。
『魔力は蔓となり対象の動きを阻害せよ』
相手を生かして、という戦闘をしたことのない俺がうーん、と唸っている間に、セナの魔法がまた発動した。
セナの手から伸びた光が、縄のように騎士たちに巻き付く。先ほどのセナの結界の詠唱だけで、動きに影響が出るほど体を強張らせていた者もいて、あっさりと捕まったり、避けて避けて、それでも捕まったりして、あっという間にその場の四人の騎士は、光の魔力に拘束された。
「抵抗あり!逆賊をうて!」
先ほどから俺たちと会話していたリーダーらしき騎士が拘束されながら声を張り上げる。やはり、狭い路地の向こうにまだ、人が居たのだろう。物音が聞こえる。
『風よ我の魔力に舞え。荒れて狂いて全て切り……』
残りの騎士を呼んだ男が、更に詠唱まで始めた。何もかも壊す気か?
部屋から走り出て、詠唱を終える前に、騎士の首筋に手刀を入れる。同じことをしようとしていたムスカが目の前でにやりと笑った。
「速いな。」
「あんたもね。」
二人で残りの、セナの光の蔓に拘束されている騎士たちにも手刀を食らわし意識を刈り取った。路地に入ってくる騎士を、体術で倒す。全部で四人程度だった。
蹴り飛ばした時に、相手の体が当たった建物の壁が少しだけ崩れたが、まあ許容範囲だろう。
「こいつらの後始末が困ったな……。」
ギリオンの呟きが全てだ。
撃退するのは容易い。だが、その後だ。騎士団に預けても、騎士団からしたらこの人たちには何の罪もないということになるんじゃないか。逆に、騎士団に逆らったとして、俺たちが罪に問われる可能性の方が高い、のかも……。
剣を抜いた奴らに、ガウナーが吠えた。普段、穏やかで無口だと思っていたガウナーが、こんなに声を荒げるなんて!
「黙れ。王命に背く逆賊ども。」
「俺たちを連れて行かなくちゃいけないんじゃないの?傷付けていいの?」
セナが挑発するとは思えないから、純粋な疑問を口にしただけなんだろうなあ。相手には、煽りの言葉に聞こえてるに違いない。
「騎士は、王に従うもの。王命に背くものはすべて敵である。」
「俺たちを倒したらあなたが、俺たちを王都に連れてこいって命令に背くことにはならない?」
「ぐぅ。」
ぐうの音も出ないという言葉があるが、ぐうの音は出たようだ。
そんなセナと騎士とのやり取りの間に、マールクとガウナーは部屋へ戻り武器を手にしていた。
「王都には冒険者の生きていく術がない。冒険者である俺たちが王都にいられなくしたのは、そちらだ。」
ギリオンがいつの間に出したのか短剣を手にして言った。長年、王都の冒険者たちを守ってきたマスターの言葉は重い。近年は、幾人もの有能な冒険者をこの町に逃がしたのだと、苦渋の表情で言っていた。まるで王都を見捨てるような行動を、したくはなかったに違いない。
『金糸銀糸を縦横に織り纏い纏わせ我の仲間の護りと為す』
セナの詠唱に、部屋の中を光が舞う。部屋の中にいる人間の周りを光の糸が無数に舞って、数秒で消えた。その守りの素晴らしさは変わらないまま、詠唱は少し短くなった気がする。
身構えている騎士団には悪いが、もうこれで攻撃がこちらに届くことはあるまい。巻き込まれただけの大家さんも大丈夫だろう。
「い、家を壊さんでくれよ。」
「もちろん。」
俺とマールクの声が重なった。家を壊さず、人も殺さず、従わず……。難しいな。
『魔力は蔓となり対象の動きを阻害せよ』
相手を生かして、という戦闘をしたことのない俺がうーん、と唸っている間に、セナの魔法がまた発動した。
セナの手から伸びた光が、縄のように騎士たちに巻き付く。先ほどのセナの結界の詠唱だけで、動きに影響が出るほど体を強張らせていた者もいて、あっさりと捕まったり、避けて避けて、それでも捕まったりして、あっという間にその場の四人の騎士は、光の魔力に拘束された。
「抵抗あり!逆賊をうて!」
先ほどから俺たちと会話していたリーダーらしき騎士が拘束されながら声を張り上げる。やはり、狭い路地の向こうにまだ、人が居たのだろう。物音が聞こえる。
『風よ我の魔力に舞え。荒れて狂いて全て切り……』
残りの騎士を呼んだ男が、更に詠唱まで始めた。何もかも壊す気か?
部屋から走り出て、詠唱を終える前に、騎士の首筋に手刀を入れる。同じことをしようとしていたムスカが目の前でにやりと笑った。
「速いな。」
「あんたもね。」
二人で残りの、セナの光の蔓に拘束されている騎士たちにも手刀を食らわし意識を刈り取った。路地に入ってくる騎士を、体術で倒す。全部で四人程度だった。
蹴り飛ばした時に、相手の体が当たった建物の壁が少しだけ崩れたが、まあ許容範囲だろう。
「こいつらの後始末が困ったな……。」
ギリオンの呟きが全てだ。
撃退するのは容易い。だが、その後だ。騎士団に預けても、騎士団からしたらこの人たちには何の罪もないということになるんじゃないか。逆に、騎士団に逆らったとして、俺たちが罪に問われる可能性の方が高い、のかも……。
57
お気に入りに追加
449
あなたにおすすめの小説

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています


騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる