【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

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そして勇者は選んだ

15 撃退

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「素手の、暴れている訳でもない相手に抜剣するなんて、騎士を名乗る資格も無い!」

 剣を抜いた奴らに、ガウナーが吠えた。普段、穏やかで無口だと思っていたガウナーが、こんなに声を荒げるなんて!

「黙れ。王命に背く逆賊ども。」
「俺たちを連れて行かなくちゃいけないんじゃないの?傷付けていいの?」

 セナが挑発するとは思えないから、純粋な疑問を口にしただけなんだろうなあ。相手には、煽りの言葉に聞こえてるに違いない。

「騎士は、王に従うもの。王命に背くものはすべて敵である。」
「俺たちを倒したらあなたが、俺たちを王都に連れてこいって命令に背くことにはならない?」
「ぐぅ。」

 ぐうの音も出ないという言葉があるが、ぐうの音は出たようだ。
 そんなセナと騎士とのやり取りの間に、マールクとガウナーは部屋へ戻り武器を手にしていた。

「王都には冒険者の生きていくすべがない。冒険者である俺たちが王都にいられなくしたのは、そちらだ。」

 ギリオンがいつの間に出したのか短剣を手にして言った。長年、王都の冒険者たちを守ってきたマスターの言葉は重い。近年は、幾人もの有能な冒険者をこの町に逃がしたのだと、苦渋の表情で言っていた。まるで王都を見捨てるような行動を、したくはなかったに違いない。

『金糸銀糸を縦横に織り纏い纏わせ我の仲間の護りと為す』

 セナの詠唱に、部屋の中を光が舞う。部屋の中にいる人間の周りを光の糸が無数に舞って、数秒で消えた。その守りの素晴らしさは変わらないまま、詠唱は少し短くなった気がする。
 身構えている騎士団には悪いが、もうこれで攻撃がこちらに届くことはあるまい。巻き込まれただけの大家さんも大丈夫だろう。

「い、家を壊さんでくれよ。」
「もちろん。」

 俺とマールクの声が重なった。家を壊さず、人も殺さず、従わず……。難しいな。

『魔力は蔓となり対象の動きを阻害せよ』

 相手を生かして、という戦闘をしたことのない俺がうーん、と唸っている間に、セナの魔法がまた発動した。
 セナの手から伸びた光が、縄のように騎士たちに巻き付く。先ほどのセナの結界の詠唱だけで、動きに影響が出るほど体を強張らせていた者もいて、あっさりと捕まったり、避けて避けて、それでも捕まったりして、あっという間にその場の四人の騎士は、光の魔力に拘束された。

「抵抗あり!逆賊をうて!」

 先ほどから俺たちと会話していたリーダーらしき騎士が拘束されながら声を張り上げる。やはり、狭い路地の向こうにまだ、人が居たのだろう。物音が聞こえる。

『風よ我の魔力に舞え。荒れて狂いて全て切り……』

 残りの騎士を呼んだ男が、更に詠唱まで始めた。何もかも壊す気か?
 部屋から走り出て、詠唱を終える前に、騎士の首筋に手刀を入れる。同じことをしようとしていたムスカが目の前でにやりと笑った。

「速いな。」
「あんたもね。」

 二人で残りの、セナの光の蔓に拘束されている騎士たちにも手刀を食らわし意識を刈り取った。路地に入ってくる騎士を、体術で倒す。全部で四人程度だった。
 蹴り飛ばした時に、相手の体が当たった建物の壁が少しだけ崩れたが、まあ許容範囲だろう。

「こいつらの後始末が困ったな……。」

 ギリオンの呟きが全てだ。
 撃退するのは容易い。だが、その後だ。騎士団に預けても、騎士団からしたらこの人たちには何の罪もないということになるんじゃないか。逆に、騎士団に逆らったとして、俺たちが罪に問われる可能性の方が高い、のかも……。

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