【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

そして勇者は選んだ

11 冒険者の矜持

　問題なく町に着いて、冒険者ギルドを訪れる。

「報酬はすでに騎士団に支払われております。」
「そんな馬鹿な。指名のパーティに護衛してもらって、今町に着いたのに、何で騎士団に報酬が渡っているんだ！」

　俺たちは、冒険者ギルドで正規の手続きを踏んで依頼を受けていないので、依頼が受理されていない扱いになるかもしれない、とは思ったが、報酬が奪われているとは想像もしていなかった。
　馬車でこの町に来られただけでとても助かったと思っている俺たちと違い、依頼主のサンスェットは納得いかないらしい。
　……まあ、納得いかないか。
　サンスェットは騎士団の護衛を一度は断っている。俺たちを指名したいと訴えたが、駄目だと無理押しされたのだ。サンスェットとしては、指名した相手が現れたのでそちらに護衛してもらうことにしただけだ。冒険者ギルドを通しているのだから、到着してから報告すれば問題なく俺たちに報酬が渡るものだと認識している。実際、そういうものの筈だ。
　報酬は、依頼が完了してから渡すことにしないと、前払いの金をもらって仕事をせずに逃げることができてしまう。そんなことになったら、冒険者に信用はなくなる、依頼する人がいなくなってしまう。身分の定まっていない冒険者の、たった一つの矜持。仕事をしっかりやって、報酬を受けとること。それを守れなければ、冒険者は、ただのならず者集団だ。
　依頼を受け、仕事を終えて報酬をもらうというやり方を崩してはいけないのだ。依頼者、冒険者、双方のために。
　その掟破りを騎士団がやっているなんて！

「俺は、あいつらなんかに何もしてもらってねえ。守ってくれたのは『護るもの』パーティだ。タダ働きなんてさせられるか！」
「サンスェットさん、気にしないで。今回はいいよ。手続きもしっかりしてないし。」
「だけど、指名料まで持ってくなんておかしかねえか！」
「おかしいけど、仕方ないよ。」

　セナが宥めて、受付のお姉さんが首を傾げた。

「指名料まで？それは犯罪ですね。」
「だろう？」
「しかし、訴える相手が王都では……。こんな無法な話は初めて聞きました。」
「俺は、金輪際王都へは行かねえ！」
「そんな、サンスェットさん以外に王都へ行ける商人なんてもう……。」

　受付のお姉さんは言いかけて口をつぐんだ。

「いえ。そう、そうですね……。冒険者ギルドから厳重な抗議を致します。けれど、お金はすぐには……。」
「抗議をしてくれるんだな。」
「ええ、もちろん。王都の冒険者ギルドが冒険者ギルドだと名乗るのなら、我々のルールには従ってもらわなくちゃ。」

　王都の冒険者ギルドと違って、ギルド内にはたくさんの冒険者がいる。皆、話は聞いていたようだ。受付を一つ占領しているのに、文句も言わずに待ってくれていたのは、話が聞こえていたからだろう。

「なら、今回はギルドに後を任せる。『護るもの』パーティには、俺からの礼を考えるよ。」

　騎士団は、完全に冒険者ギルドを敵に回した。