【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

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そして勇者は選んだ

8 王都脱出

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 騎士団は、俺に声をかけてきたときの雰囲気で人探しをしているようだ。つまり、そんなに本気ではない。
 ピタパンをかじりながらでも、相手の動きを見つつ狭い路地を進めば、特に問題なく門の所へたどり着くことができた。マールクとガウナーもたどり着いている。

「門をどう抜けるか、だな。」
「流石に門番をふりきって行くのは難しいだろうな。」

 ランクの高い冒険者のいなくなった王都から、個人で出ていく者なんていない。
 門の近くで立ち話していると、馬車が三台、現れた。八人の騎士に囲まれている。

「騎士団に守られて行けるのだ、こんなに安心なことはないだろう?」
「ありがたく思っております。」

 頭を下げる商人は、言葉とは裏腹に浮かない表情をしている。

「あの商人が、来るときに護衛した人だよ。指名依頼を出してくれていたんだ。」

 姿を隠して門の様子を伺えば、マールクが教えてくれた。

「へえ。」
「俺たちを待つと言っていたんだろう?もう出るのか?」

 セナが首を傾げる。

「まあ、傷む荷物もあるかもしれないしな。」

 マールクが言ったもっともらしい言葉も、何だかしっくりこない。

「夕方に門を閉める作業の頃に、走り出るか。」
「それとも今、声をかけるのはどう?あの人は、俺たちを指名していたんだもの。」

 それはいいかもしれない。門の外で夜を越すのは危険だしな。

「騎士団も、無体はできないかもな。」
「でしょ?」
「もしも、捕縛されそうになったら、門を強行突破しよう。」
「よし。」

 話がまとまったので、俺たちは隠れていた物陰から揃って姿を現した。

「サンスェットさん、こんにちは。」

 構える騎士たちを余所に、セナがにこやかに挨拶をすると、サンスェットと呼ばれた商人の顔がぱっと明るくなった。

「やあ、良かった。指名依頼を見てくれたのか?」
「はい!ありがとうございます。」
「君たちの用事は済んだかい?」
「ええ。ちょうど帰ろうと思っていたんです。」
「そうか!では、早速頼むよ。」

 騎士団の代表らしき男が、剣の柄に手をかけたまま、こちらに近寄ろうとするサンスェットを止めた。

「『護るもの』パーティか?すまないが、今回の依頼は騎士団が請け負うことになった。お前たちにはギルド長から話があるからギルドへ戻れ。」
「指名依頼ですよ?」
「指名依頼を出しているんだ。彼らに護衛してもらいたい。」

 マールクの声とサンスェットの声が重なる。指名料を払ってでも、指定しているのだ。変更の権利はギルドにはないはず。

「我らは八人で行く。こちらの方が手厚かろう。その上、依頼料はあちらに頼むのと同じで良いと言っておるのだぞ。」
「同じじゃぼったくりだ。指名料まで払わされるなら、あちらがいい。」

 サンスェットは、このパーティを気に入っている上に、騎士たちの態度も気に入らないらしい。早口で捲し立てた。

「依頼主があちらがいいと言ってるんですぜ?騎士団だか何だか知らねえが、こちらはギルドに依頼を出してるんだから、ギルドのルールに従ってくだせえ。」
「ぐっ、この。生意気な口を……。」

 サンスェットは、こちらを向く。

「すぐ出られるか?」
「もちろんだ。」

 マールクの言葉に、セナが詠唱を始める。

『縦の糸は金の糸。横の糸は銀の糸。織り重なりて姿を隠し、この馬車を囲い込め。』

 きらきら光る光魔法の結界。ああ、綺麗だ。今日も素晴らしい出来だな。 
 騎士たちが、唖然としている間に三台の馬車に別れて乗った。

「ま、待て!」

 御者台から降りずに待っていた使用人たちは、すぐに馬に鞭を入れる。走り出した馬車に向かって放たれた幾つかの魔法は、セナの結界に全て弾かれた。

「迷わず攻撃魔法を打ちやがった……。」

 サンスェットが呆然と呟いている。
 王都はもう、駄目かもしれない。

 


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