136 / 211
そして勇者は選んだ
4 勇者であること
しおりを挟む
「お腹空いた……。」
目を開けて呟くと、呆れたようなセナの顔が見えた。
「だろうねえ。」
セナを抱きしめている腕に力を込める。ああ、布団が柔らかくて、いいなあ。
「ユーゴー、起きて。寝直すなら、俺を離して。」
「やだ。離さない。」
「丸一日寝て、まだ寝るつもり?俺はトイレに行きたい!」
「丸一日……?」
驚いて腕の力が緩んだ隙に、セナが抜け出した。トイレへと駆け込んでいく。
俺もトイレ……。
もそもそと布団の上に起き上がると、伸びをする。
ああ、生きている。
まだ寝ていられそうなくらいぼんやりとしているけれど、自分で考えて、自分のやりたいことをしている。セナになら、いやとか、したくない、とか否定的な言葉を出しても大丈夫な気がするのは何でだろうな。
今、何をしても楽しい気分。
体は重い。セナと離れていた二ヶ月間の俺といったらもう、無敵だった。考えた通りに体は動き、魔法を出せた。魔物を倒してレベルはどんどん上がり、結局、必死で鍛えていた前世の俺と同じくらいまで追いついてしまったのではないだろうか。
神様の焦りがみえるかのように、魔物の多い場所へと導かれ、体力、魔力の限りを尽くして倒した。疲れては、何故か上手く見つけることのできる木のうろで眠っていたけれど、何かに襲われることもなく無事だった。
……神の采配だと言うのなら、魔王や魔物を自分で倒してくれないかな。これだけ人のことを好きに操れるのなら、そのくらいできないんだろうか。
そう。
俺は、死んだのに。
確かに魔王を倒して死んだのに、またここにいる。同じ道を歩まされようとしている。同じ道では、同じ結果になると分からないのだろうか。
権力者が、自らの身を守るためだけに、神が力を持たせた人々を使ってしまうかもしれないと、分からないものだろうか。
分からないのだろうな。
分からないし、干渉できる範囲も限定されている、と考えるのが妥当だろう。俺への干渉は、他の者より大分しやすいに違いない。俺が拒否さえしなければ。
時を戻せるほどの力があるのなら、何故こんな危険な世界をそのままにしておくのか。
その答えが、俺にしか基本的には干渉できないから、だとしたら、それはとてもとても迷惑な話で。
「ユーゴー。トイレあいたよ。」
「ん。」
立ち上がってふらふらするのも、滅多にできない体験だ。
「治癒しようか?」
「いい。」
「はーい。」
ほら。これでいいんだ。
魔王を倒せる力も、その為だけの体も、俺にはいらない。セナの望みならと試してみたけれど、前世の記憶のある俺には、完全な神の操り人形である勇者になるのは無理だった。
勇者の資格を誰かに渡せたりは、しないのだろうか……。
目を開けて呟くと、呆れたようなセナの顔が見えた。
「だろうねえ。」
セナを抱きしめている腕に力を込める。ああ、布団が柔らかくて、いいなあ。
「ユーゴー、起きて。寝直すなら、俺を離して。」
「やだ。離さない。」
「丸一日寝て、まだ寝るつもり?俺はトイレに行きたい!」
「丸一日……?」
驚いて腕の力が緩んだ隙に、セナが抜け出した。トイレへと駆け込んでいく。
俺もトイレ……。
もそもそと布団の上に起き上がると、伸びをする。
ああ、生きている。
まだ寝ていられそうなくらいぼんやりとしているけれど、自分で考えて、自分のやりたいことをしている。セナになら、いやとか、したくない、とか否定的な言葉を出しても大丈夫な気がするのは何でだろうな。
今、何をしても楽しい気分。
体は重い。セナと離れていた二ヶ月間の俺といったらもう、無敵だった。考えた通りに体は動き、魔法を出せた。魔物を倒してレベルはどんどん上がり、結局、必死で鍛えていた前世の俺と同じくらいまで追いついてしまったのではないだろうか。
神様の焦りがみえるかのように、魔物の多い場所へと導かれ、体力、魔力の限りを尽くして倒した。疲れては、何故か上手く見つけることのできる木のうろで眠っていたけれど、何かに襲われることもなく無事だった。
……神の采配だと言うのなら、魔王や魔物を自分で倒してくれないかな。これだけ人のことを好きに操れるのなら、そのくらいできないんだろうか。
そう。
俺は、死んだのに。
確かに魔王を倒して死んだのに、またここにいる。同じ道を歩まされようとしている。同じ道では、同じ結果になると分からないのだろうか。
権力者が、自らの身を守るためだけに、神が力を持たせた人々を使ってしまうかもしれないと、分からないものだろうか。
分からないのだろうな。
分からないし、干渉できる範囲も限定されている、と考えるのが妥当だろう。俺への干渉は、他の者より大分しやすいに違いない。俺が拒否さえしなければ。
時を戻せるほどの力があるのなら、何故こんな危険な世界をそのままにしておくのか。
その答えが、俺にしか基本的には干渉できないから、だとしたら、それはとてもとても迷惑な話で。
「ユーゴー。トイレあいたよ。」
「ん。」
立ち上がってふらふらするのも、滅多にできない体験だ。
「治癒しようか?」
「いい。」
「はーい。」
ほら。これでいいんだ。
魔王を倒せる力も、その為だけの体も、俺にはいらない。セナの望みならと試してみたけれど、前世の記憶のある俺には、完全な神の操り人形である勇者になるのは無理だった。
勇者の資格を誰かに渡せたりは、しないのだろうか……。
45
お気に入りに追加
449
あなたにおすすめの小説

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる