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そして勇者は選んだ
4 勇者であること
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「お腹空いた……。」
目を開けて呟くと、呆れたようなセナの顔が見えた。
「だろうねえ。」
セナを抱きしめている腕に力を込める。ああ、布団が柔らかくて、いいなあ。
「ユーゴー、起きて。寝直すなら、俺を離して。」
「やだ。離さない。」
「丸一日寝て、まだ寝るつもり?俺はトイレに行きたい!」
「丸一日……?」
驚いて腕の力が緩んだ隙に、セナが抜け出した。トイレへと駆け込んでいく。
俺もトイレ……。
もそもそと布団の上に起き上がると、伸びをする。
ああ、生きている。
まだ寝ていられそうなくらいぼんやりとしているけれど、自分で考えて、自分のやりたいことをしている。セナになら、いやとか、したくない、とか否定的な言葉を出しても大丈夫な気がするのは何でだろうな。
今、何をしても楽しい気分。
体は重い。セナと離れていた二ヶ月間の俺といったらもう、無敵だった。考えた通りに体は動き、魔法を出せた。魔物を倒してレベルはどんどん上がり、結局、必死で鍛えていた前世の俺と同じくらいまで追いついてしまったのではないだろうか。
神様の焦りがみえるかのように、魔物の多い場所へと導かれ、体力、魔力の限りを尽くして倒した。疲れては、何故か上手く見つけることのできる木のうろで眠っていたけれど、何かに襲われることもなく無事だった。
……神の采配だと言うのなら、魔王や魔物を自分で倒してくれないかな。これだけ人のことを好きに操れるのなら、そのくらいできないんだろうか。
そう。
俺は、死んだのに。
確かに魔王を倒して死んだのに、またここにいる。同じ道を歩まされようとしている。同じ道では、同じ結果になると分からないのだろうか。
権力者が、自らの身を守るためだけに、神が力を持たせた人々を使ってしまうかもしれないと、分からないものだろうか。
分からないのだろうな。
分からないし、干渉できる範囲も限定されている、と考えるのが妥当だろう。俺への干渉は、他の者より大分しやすいに違いない。俺が拒否さえしなければ。
時を戻せるほどの力があるのなら、何故こんな危険な世界をそのままにしておくのか。
その答えが、俺にしか基本的には干渉できないから、だとしたら、それはとてもとても迷惑な話で。
「ユーゴー。トイレあいたよ。」
「ん。」
立ち上がってふらふらするのも、滅多にできない体験だ。
「治癒しようか?」
「いい。」
「はーい。」
ほら。これでいいんだ。
魔王を倒せる力も、その為だけの体も、俺にはいらない。セナの望みならと試してみたけれど、前世の記憶のある俺には、完全な神の操り人形である勇者になるのは無理だった。
勇者の資格を誰かに渡せたりは、しないのだろうか……。
目を開けて呟くと、呆れたようなセナの顔が見えた。
「だろうねえ。」
セナを抱きしめている腕に力を込める。ああ、布団が柔らかくて、いいなあ。
「ユーゴー、起きて。寝直すなら、俺を離して。」
「やだ。離さない。」
「丸一日寝て、まだ寝るつもり?俺はトイレに行きたい!」
「丸一日……?」
驚いて腕の力が緩んだ隙に、セナが抜け出した。トイレへと駆け込んでいく。
俺もトイレ……。
もそもそと布団の上に起き上がると、伸びをする。
ああ、生きている。
まだ寝ていられそうなくらいぼんやりとしているけれど、自分で考えて、自分のやりたいことをしている。セナになら、いやとか、したくない、とか否定的な言葉を出しても大丈夫な気がするのは何でだろうな。
今、何をしても楽しい気分。
体は重い。セナと離れていた二ヶ月間の俺といったらもう、無敵だった。考えた通りに体は動き、魔法を出せた。魔物を倒してレベルはどんどん上がり、結局、必死で鍛えていた前世の俺と同じくらいまで追いついてしまったのではないだろうか。
神様の焦りがみえるかのように、魔物の多い場所へと導かれ、体力、魔力の限りを尽くして倒した。疲れては、何故か上手く見つけることのできる木のうろで眠っていたけれど、何かに襲われることもなく無事だった。
……神の采配だと言うのなら、魔王や魔物を自分で倒してくれないかな。これだけ人のことを好きに操れるのなら、そのくらいできないんだろうか。
そう。
俺は、死んだのに。
確かに魔王を倒して死んだのに、またここにいる。同じ道を歩まされようとしている。同じ道では、同じ結果になると分からないのだろうか。
権力者が、自らの身を守るためだけに、神が力を持たせた人々を使ってしまうかもしれないと、分からないものだろうか。
分からないのだろうな。
分からないし、干渉できる範囲も限定されている、と考えるのが妥当だろう。俺への干渉は、他の者より大分しやすいに違いない。俺が拒否さえしなければ。
時を戻せるほどの力があるのなら、何故こんな危険な世界をそのままにしておくのか。
その答えが、俺にしか基本的には干渉できないから、だとしたら、それはとてもとても迷惑な話で。
「ユーゴー。トイレあいたよ。」
「ん。」
立ち上がってふらふらするのも、滅多にできない体験だ。
「治癒しようか?」
「いい。」
「はーい。」
ほら。これでいいんだ。
魔王を倒せる力も、その為だけの体も、俺にはいらない。セナの望みならと試してみたけれど、前世の記憶のある俺には、完全な神の操り人形である勇者になるのは無理だった。
勇者の資格を誰かに渡せたりは、しないのだろうか……。
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