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そして勇者は選んだ
2 二人がいい
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ふらふらとしながら王都へ移動して、食堂へ入りたかったができなかった。
俺が酷く臭ったからだ。
川でたまに水浴びはしていたが、しっかりと汚れを落としていた訳じゃない。体に障りが無いように生きてきただけだった。俺のしなくてはならないことはレベルを上げることで、剣技や魔法を磨くことだった。魔物を片っ端から倒すことだった。
「屋台で何か買ってくるから、ユーゴーはとりあえず風呂に入れ。」
マールクが取ってくれた宿の中へ素早く入り、大浴場へと向かった。着替えも何も無い。一体俺は、どんな暮らしをしていたのか、と首を傾げてしまう。
「ユーゴーに分からなければ、誰も分からないよ。」
セナが困ったように笑った。良かった。やっと笑ってくれた。
着替えやらその辺も買ってくる、とマールクは出掛けて行った。ガウナーが部屋で荷物を見ていてくれるらしい。セナが体を洗う布を持って付いてくる。
「俺、汚いよ。」
「だから、一緒に洗うんでしょ。」
そうか。そうだな。
使っていなかった頬の筋肉がぴくぴくと動いた。
半端な時間なので他に客がいなかったのは助かった、と服を脱ぐ。服も酷い有り様だった。捨てるにしても洗った方がよかろうか、と風呂場に持って入った。
湯船から湯を汲んでかぶると、体から力が抜けるようだった。
温かい。
なんて気持ちが良いことだろう。床に座り込んで、ざぶざぶとかぶる。
川の水は冷たかったなあ、と考えていると、風呂椅子と桶と石鹸を持ったセナが近付いてきた。
「ユーゴー、椅子に座りなよ。お風呂の入りかたも忘れちゃったの?」
笑いながら泡立てた石鹸で背中を擦り始める。
「忘れてたみたいだ。」
振り返って見上げたセナの体は、俺が覚えているよりずっと筋肉がついて逞しくなっていた。所々に傷痕も見える。
セナ。
俺を迎えに来るために、無茶したんじゃないよな?
「セナ……。」
「んー?」
「強くなった?」
「ちょっとはね。」
「俺も強くなってた。」
「なってたの?」
「うん。セナと会ったら、また弱くなったみたい。」
「そう?ユーゴーはいつでも強いけど。」
「セナといると死にたくなくなるんだよ。」
「……俺といないとどうなるの?」
「目的のためなら、自分の命も使う、かな。」
「目的って?」
セナは、俺の背中や腕や首を、石鹸を付けてごしごしと擦っては、茶色く変色した泡を流す。気持ちいいし、お腹空いて力も出ないし、俺はぼやぼやとされるがままだ。
「魔王を倒すこと、だろ?」
「……死んだらまた、やり直しなんじゃなかったっけ?」
「でも、死にたくないって強い気持ちはなかったんだよなあ。」
胸、お腹、足の指まで、セナは丁寧に洗ってくれて、大切な部分は自分で洗えと布を渡された。
さてさて、と髪の毛に取りかかるために膝立ちになったセナに、綺麗になった体で抱き着いてみる。ひんやりしているのに驚いて、慌てて桶で湯をかけた。
「ふわ。あったかい。」
「セナ。自分のことを忘れないでよ。」
セナもやっぱり俺がいないと駄目だなあと思いながら、幸せをかみしめる。
ずっとずっとこうしていたい……。
俺が酷く臭ったからだ。
川でたまに水浴びはしていたが、しっかりと汚れを落としていた訳じゃない。体に障りが無いように生きてきただけだった。俺のしなくてはならないことはレベルを上げることで、剣技や魔法を磨くことだった。魔物を片っ端から倒すことだった。
「屋台で何か買ってくるから、ユーゴーはとりあえず風呂に入れ。」
マールクが取ってくれた宿の中へ素早く入り、大浴場へと向かった。着替えも何も無い。一体俺は、どんな暮らしをしていたのか、と首を傾げてしまう。
「ユーゴーに分からなければ、誰も分からないよ。」
セナが困ったように笑った。良かった。やっと笑ってくれた。
着替えやらその辺も買ってくる、とマールクは出掛けて行った。ガウナーが部屋で荷物を見ていてくれるらしい。セナが体を洗う布を持って付いてくる。
「俺、汚いよ。」
「だから、一緒に洗うんでしょ。」
そうか。そうだな。
使っていなかった頬の筋肉がぴくぴくと動いた。
半端な時間なので他に客がいなかったのは助かった、と服を脱ぐ。服も酷い有り様だった。捨てるにしても洗った方がよかろうか、と風呂場に持って入った。
湯船から湯を汲んでかぶると、体から力が抜けるようだった。
温かい。
なんて気持ちが良いことだろう。床に座り込んで、ざぶざぶとかぶる。
川の水は冷たかったなあ、と考えていると、風呂椅子と桶と石鹸を持ったセナが近付いてきた。
「ユーゴー、椅子に座りなよ。お風呂の入りかたも忘れちゃったの?」
笑いながら泡立てた石鹸で背中を擦り始める。
「忘れてたみたいだ。」
振り返って見上げたセナの体は、俺が覚えているよりずっと筋肉がついて逞しくなっていた。所々に傷痕も見える。
セナ。
俺を迎えに来るために、無茶したんじゃないよな?
「セナ……。」
「んー?」
「強くなった?」
「ちょっとはね。」
「俺も強くなってた。」
「なってたの?」
「うん。セナと会ったら、また弱くなったみたい。」
「そう?ユーゴーはいつでも強いけど。」
「セナといると死にたくなくなるんだよ。」
「……俺といないとどうなるの?」
「目的のためなら、自分の命も使う、かな。」
「目的って?」
セナは、俺の背中や腕や首を、石鹸を付けてごしごしと擦っては、茶色く変色した泡を流す。気持ちいいし、お腹空いて力も出ないし、俺はぼやぼやとされるがままだ。
「魔王を倒すこと、だろ?」
「……死んだらまた、やり直しなんじゃなかったっけ?」
「でも、死にたくないって強い気持ちはなかったんだよなあ。」
胸、お腹、足の指まで、セナは丁寧に洗ってくれて、大切な部分は自分で洗えと布を渡された。
さてさて、と髪の毛に取りかかるために膝立ちになったセナに、綺麗になった体で抱き着いてみる。ひんやりしているのに驚いて、慌てて桶で湯をかけた。
「ふわ。あったかい。」
「セナ。自分のことを忘れないでよ。」
セナもやっぱり俺がいないと駄目だなあと思いながら、幸せをかみしめる。
ずっとずっとこうしていたい……。
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