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世界の平和を祈った聖者の話

31 王命

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「へ?」

 そりゃ、そんな声も出るだろう。

「ムスカまで居やがって、本当に迷惑だ。早く帰れ。」
「マスター、俺たち今着いたんだって。そんなすぐに帰れないよ。馬車もないし。」
「お前らなら歩いても帰れるだろ?」
「まてまて、酷いな、おい。帰れるけども。」

 あ、帰れるんだ。
 さすがムスカ。

「俺は、このギルドを解体してしまおうかと思っている。」

 マスターが、冗談ではない口調で俺たちに告げたときに、からん、と入り口の扉が開いて、薬草を持った子どもが入ってきた。
 驚いたようにこちらを見てから、そっと距離を取りつつ受付へと歩いた。子ども、と言っても十五歳からしかギルドに登録はできないんだから、きっと同じ年だろう。痩せた、顔色の悪い男の子だった。

「取れました。」

 受付に丁寧に並べる品を、受付のお姉さんがゆっくりと調べている。

「奥の部屋へ行こう。」

 マスターの執務室のような部屋へと通された。三人掛けのソファに座ると、マスターも向かい側に座る。ムスカは横の一人掛けのソファに座った。

「護衛任務を終えた申請をするためと、さっきの子どものような、町での仕事がない子のためにも開けておきたいんだが……。」

 マスターは、急ぐように話し始めた。

「うちの情報がすべて王家に筒抜けになっている。その上、少しでも力のある者を根こそぎ騎士団に持っていかれた。鑑定で光の魔力を示したら、大した魔力量でなくても問答無用で王宮に連れて行かれているって話も聞く。」
「前みたいに、騎士団に入りませんかって勧誘じゃなく?」

 マールクが驚いて声を上げる。

「ああ、冒険者ギルドのAランク以上は騎士団に所属しろ、という王命だ。騎士団こそが人々を守るんだそうだ。給料も出て、安定した暮らしができるのだから、感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはない、と。」
「マスターは、大丈夫なのか?Aランクだろう?」
「俺は、現役ではないとの理由でランクを下げた。ギルドマスターの権限でな。冒険者を続けたい者は、なるべく王都から逃がしたつもりだ。」
「王都から出る馬車の護衛は?」
「それも、騎士団が請け負っている。ここに依頼に来た者へ説明して、俺が騎士団へ話をしに行くか、依頼主に行って貰うかなんだが、二度手間だろう?騎士団がここへ常駐の者を置くと言い出してな。ついでに、お前たちのような隣町のAランクも確保しようという算段だろう。そんなことをしていたら、隣町から物資が来なくなると訴えたんだが聞く耳を持たん。」
「俺は、何か言われたら年齢を理由に引退宣言をするから気にしなくていい。」

 ムスカがけろりと言うと、マスターは深く深く溜め息を吐いた。

「そんなことで話がつくと思うなよ。本当にあいつら話が通じない。」
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