【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

文字の大きさ
上 下
117 / 211
世界の平和を祈った聖者の話

20 籠城

しおりを挟む
 やっぱり聖女たちをこのままにして三人で逃げることはできなかった。ガウナーはもちろん、直ぐにこの町を出るのが正解だ、と言ったマールクも言っただけで動こうとはしない。

「こうなったからには、とことんやるのも有りか?」

 なんてぶつぶつ言っている。

「ここで、俺たちが捕まったらどうなると思う?」
「王都に送り返される、かなあ。」
「だよな。いざとなれば抵抗しなければ、拘束されるだけだと思うんだが。」
「神託の聖者だし?」
「そう。神託の聖者だ。もともと王家は、セナを手元に置いておきたかったから魔法学校に入れたんだろう?勇者の手がかりもセナだけだ。滅多なことはないだろう。」

 マールクと俺の話はかなり楽観的な方へと流れている。ガウナーは、眉間にしわを寄せた。

「ここの人間は、セナがどれほど重要か、分かっていないかもしれない。」
「あー、成る程。」

 この町は、王都の隣でありながら、王家所属の騎士になることを嫌がって王都から逃れてきた強い冒険者が多く、簡単に言いなりにはならない、という雰囲気が漂っている。
 教会からの遣いが騒ぎを王都に知らせて、さらに王命が届くまでに、神託の聖者という称号の価値は思っているより低いかもしれない。

「ユーゴーは、王都近くの森にいる。あちらへ向かいたいな。」

 二人がぎょっと俺を見た。
 何で分かるのかって?

「神様が教えてくれたから。」

 マールクとガウナーは顔を見合わせて溜め息を吐いた。
 え?何だろ?分かるのなら早く探しに行けば良かったのに、とかそんな感じかな。

「あの、ごめん。でも、神様に関わるのが嫌で。もう少し鍛えないとユーゴーがいる場所には行けないだろうなって思ったし。」
「お前は、紛れもない聖者だ。なら、ユーゴーはなんだ?」

 ユーゴーが居なくなった時にも、マールクは言っていた。強すぎる子どもだと。俺は口をつぐんでいた。

「神様が、すぐに居場所を分かる人だよ。」

 バキッと音がした。教会との境目の扉に、ものすごい衝撃が加わる気配がする。こちらから見た扉は何の変わりもない。治療院の入り口の方でも、同じような音がした。

「結界って、魔物以外にもきくようにできるんだな。」

 俺が笑って言うと、体に緊張を走らせていた二人が、呆れたように力を抜いた。

「閉じこもるのか?」
「聖女が寝てる間ね。」
「水は、聖水の甕があったから、食べ物を探してこよう。」

 マールクが、諦めたように言った。ガウナーも一緒に動き出す。
 
「ありがと。」

 俺は、もう少し結界を強化するために詠唱をすることにした。
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

処理中です...