【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

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小さな幸せを願った勇者の話

95 勇者と名乗れば

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 まだ昼食後なので、宿が埋まっているということは無かった。

「安宿で一晩過ごすか、少し良い所で何日分かまとめ払いして割引いてもらうか、いっそ安い借家を借りて月単位で滞在するか……。」

 色々と見て回ったり、案内の所へ行って聞いてからも、なかなか結論は出ない。冒険者とは、大変な職業だな。

「この町にどのくらい滞在する?」

 マールクが難しい顔で考える。

「王都から近すぎるし、もうひとつふたつ離れたい。お金が貯まったら、家に帰りたい。」

 俺の言葉に驚いたのはセナだった。

「帰るの?」
「え?セナは帰らないのか?」

 俺も驚いて問い返す。
 だってもう、王命を破ったのだから、家でのんびり暮らして、使いが来たら追い返せばいいじゃないか。あの村と王都は、そうそう簡単に行き来できる距離じゃないし、しょっちゅうは来ないだろう。

「そうか、うん……。」

 セナは考え込んでいるが、俺たちが帰ると家族に迷惑がかかるのだろうか?
 それなら、迷惑がかからないように我慢するけど。

「とりあえず、何日か滞在して依頼を取れるか頑張ってみよう。取りにくそうなら移動しよう。」

 マールクが話をまとめて安宿を取った。四人部屋というのは無くて、一人部屋を三つという形にした。

「ガウナー、一人で良く考えてみてくれ。騎士に戻れるなら戻っていい。」
「…………。」

 軽く首を横に振ったガウナーが部屋へ入るのを見送り、明日の朝に早起きする約束をして俺たちとマールクも部屋へ入る。夕食も各自で摂ることになった。

「ユーゴーは。」

 部屋へ入るなり、セナが言う。

「助けられる命を助けようとは思わないの?」
「自分のできる範囲でなら、やるけど?」
「できる範囲……。」

 首を傾げるので言い換える。

「治癒魔法と同じだよ。できる範囲を越えると自分の命が失くなるだろ?あの、王女様みたいに。」
「……うん。」
「俺は、セナと楽しく生きたいから、俺とセナの命が危なくなるようなことはしない。」
「俺は……。聖者だけど、助けなくていいのかな。」
「誰かを助けて金が降ってくるならやるけど?」
「ユーゴーは……、勇者だけど、村に帰っちゃっていいの?」
「だから、金が降ってくるなら助けるって。」
「降ってこないよ、そんなの。」
「じゃ、無理だ。金が無いと暮らせないもん。」

 ベッドに座り込んだセナが頭を抱える。

「もし、もしも。」
「何?」

 俺は荷物の整理をしながら、旅装を解いた。
 セナが動かないので、セナの旅装も解いていく。決意を秘めた目がこちらを見ている。

「ユーゴーが、勇者だと名乗りを上げたら。」

 ずきん、と頭に痛みが走った。懐かしい感覚。光の腕輪に、セナの魔力を入れてもらうのを忘れていたかもしれない。

「勇者だと名乗ったら、王様からお金をもらって人助けの旅ができる?」

 セナの声が遠く聞こえる。
 神の干渉。
 勇者よ、鍛えよ。
 ただひたすらに己を磨き、魔王を倒せ。
 絶対に嫌だ、と思った瞬間に、あまりの頭痛に意識が途切れた。 
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