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小さな幸せを願った勇者の話

89 『護るもの』

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「認定したばかりのAランクパーティ?見たことのない者ばかりだな。」
「冒険者登録をして日が浅い。まだ個人ランクはDなんだ。」

 マスターの言葉に、商人ガロンは目を吊り上げる。

「冗談ではないぞ。そんなのに任せられるか!」
「特例を発動すれば個人ランクも一息にAに上げられる。そのくらいの実力があるパーティだよ。だが、あまり目立つことをしたくない。特例を発動すると、国からの横やりが入るんだ。有望な人間が根こそぎ騎士団に持っていかれる。」

 へええ。冒険者ギルドも苦労しているんだな。どうりで、高位ランクの人間もパーティも少ないはずだ。

「子どもが二人、混じっているぞ。」
「十五歳なんだから、登録できるさ。子どもじゃない。」
「あの二人もAランクと言うつもりか?」

 マールクとガウナーは、騎士服のままでは不味いと上着を脱いだ状態なので、筋肉が良く見えたようだ。俺たちはまだ、成長途中の子どもである。俺はそのうち、ガウナーほどではないが、マールクくらいの大きさに成長する。でも、セナはこの後も大して大きくならない。……本人は今のところ、そのうち大きくなるつもりだけど。
 そのセナの小さめの体が、抱きしめて寝やすくて、俺は気に入ってるけどな。

「その子ども二人なら、Sを渡してもいいくらいだ。」
「…………っ。」

 ガロンは絶句して、マスターと俺たちを見比べた。

「実績もある。見るか?」

 マスターは、淡々と書類を取り出してガロンに渡した。しばらく書類に目を通したガロンが、分かった、と呟く。

「こいつらに頼むことにする。パーティ名は?」
「パーティ名?」

 四人で顔を見合わせた。

「いきなりパーティを組んですぐに討伐に出たし、その後も忙しくて言えてなかったな。パーティ名が空欄のままだった。すまん。」

 マスターが言うが、空欄で構わないなら俺たちもそれでいいけど?

「そんなわけには行かない。指名依頼の時に、パーティ名がないと指名できないだろ?今、決めてくれ。」

 難しいなあ。珍しくガウナーが口を開く。

「護るものってどうかな?」
「護る?」
「俺は、国を守りたくて騎士になった。魔物に壊されたくない。騎士は今日、辞めたけど、この気持ちは冒険者になっても同じだから。」
「いいな。積極的に攻撃に出る訳じゃないとこが。」
「護衛の仕事ばかり来たりして。」
「うーん、そうかも?そうなると、移動が多くて面倒臭いか。」
「どちらにしろ、セナはそのうち勇者と旅に出るんだろう?勇者を助けるんだし、護るものでいいんじゃないか?」

 マスターが俺たちの会話に口を挟んできた。
 俺、旅に出る気はあまり無いけど。ま、いいか。
 俺たちのパーティ名は『護るもの』になった。
 護る気のない勇者のパーティ名が、護るもの。笑い話のような本当の話。
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