【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

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小さな幸せを願った勇者の話

86 唯一の

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 当然、Aクラスにセナの席はない。
 立ちっぱなしの一日に、セナはあっという間に疲弊した。俺でも、怠さを感じるほどなのだから、騎士や護衛のように鍛えている訳ではないセナには、だいぶ辛いと思う。
 トイレの個室に入らなければ、座ることができない状況である。休憩時間ごとに個室へ入ることを繰り返していると、流石に見咎められ、トイレの回数すら制限されてしまった。
 昼食も、俺たちがいつも使用している食堂ではなく、Aクラスの使用する食事場所へ連れていかれたが、メニューは、一番安いものでも日替わり定食五個分の値段だった。
 食べないのならと席に着かせてもらえず、高貴な方々の食事風景を、護衛や侍従と共に立って見守る。
 昼ごはん抜きはきついと、朝ごはんのパンを隠し持ってトイレで食べようとしてみたが、疲れはてたセナが大急ぎで口に入れても、喉を通らなかった。
 四日目にやっと気付く。

「登校しなきゃいいんじゃないか?」 

 なんで、真面目に通っていたのだろう。学校へ行かなければ、こんな目に合わないのじゃないか?この寮に、Aクラスの人間はいない。

「本当だ。」

 呟いたセナに、俺は手をかざした。今日のセナは、ベッドから起き上がることもできずにいる。

『セナは良くあれ。』

「ユーゴー!」

 淡い光がセナを包んで、数十秒後に消えた。
 勢いよく起き上がったセナが、ぱちん、と俺の頬を叩く。

「治癒魔法は使わない約束でしょ!」
「俺は、魔力量が多い。大丈夫だ。」
「俺だって魔力量は多いよ?」
「セナは、使ったら駄目だ。」
「自分は使っておいて、勝手だ!」

 俺は、本当に大丈夫なんだ。だいたい死んだって……。
 セナは、ふいっと俺から顔を逸らして着替えを始めた。

「制服着るの?」
「朝ごはんの時に、違う服だと何か言われるでしょ、ユーゴーって馬鹿?」
「あ、うん……、そっか。」

 たった三日で、すっかり痩せたセナの腹を見る。見ながら俺も、いつもの、騎士服に似せた服に着替え始めた。セナに、しっかりとご飯を食べさせないとな。
 俺の方に、そんなに変化は見られない気がした。やっぱり、勇者は特別仕様かな。

「ユーゴー、痩せちゃったね。朝ごはんをちゃんと食べたら、ギルドに行って仕事しよう?美味しい昼ごはん食べて帰ろうよ。」
「え?俺?セナは痩せたけど、俺は、そんな……。」
「そういうとこ、駄目なんだよ。本当に、俺がいないと駄目なんだから。」

 セナは、まだ不貞腐れた物言いだけど、俺は何だか嬉しくなって、ふふっと笑った。

「笑ってんじゃないよ、もうっ。本当に、駄目なんだよ。ユーゴーは、自分を後回しにしすぎるのが駄目なんだ。俺は、怒ってるんだからね?」
「うん。ごめん?」

 振り向かずに部屋を出ようとしているくせに、ドアを押さえて待っている。優しいセナは、怒るのも下手くそだ。
 セナ。
 俺は自分を後回しにしてる訳じゃないよ。
 セナが、何より一番ってだけなんだ。
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