【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

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小さな幸せを願った勇者の話

82 食堂の新しい楽しみ方

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 寮に帰った後は、何故かセナに、とことん世話を焼かれた。
 まず、移動はずっと手を繋いで離さない。部屋へ着くと、ベッドまで手を引かれ座らされた。

「もう、大したことないよ。」
「でもまだ、いつもと様子が違うから。」

 そう言って、何にもさせてくれなかった。まあ、楽しそうなので片付けをしている様子を見守る。
 終わったら、また手を引かれて食堂へ行く。座ってて、と言われて待っていると、うきうきと二人分の食事を運んできた。

「はい、あーん。」

 にこにことスプーンにスープを乗せて差し出す。あまりの笑顔に、うっかり口を開けた。美味しい。美味しいけど、これを全部やると物凄い時間がかからないか?

「えーと、セナ?」
「ん?なあに?」

 次のスープをすくって待っているが、自分のご飯はいつ食べるつもりかな?
 それに……。

「何やってんだよ、お前ら。」

 二人きりじゃない。

「ん?ユーゴーが熱あるから、お世話してんの。」
「いや、そこまでするほどには見えねえけど?」

 たまたま近くの席に座ったクラスメイトが、声をかけてくる。

「ふふっ。ユーゴーが弱ってるなんて珍しいから、目一杯構おうかと思って。」
「なんじゃ、そりゃ。」

 楽しそうに笑うセナ。
 軽口を叩いて笑うクラスメイト。

「ユーゴー、笑ってないで、何か言えよ。」
「え?」
「このままじゃ食べ終わらないぞ。」

 ああ、確かに。
 準備されていた二口目ももらってから、口を開く。

「セナ。この後は自分で食べようかな。セナも温かいうちに食べた方が美味しいよ?」

 セナは、自分が食べることをすっかり忘れていたらしい。はっとした顔をして、慌てて自分もスープを飲んだ。
 その間に、俺もスプーンを手にする。もくもくと食べ始めると、セナがものすごーくがっかりした顔でこちらを向いた。

「そんなに?」
「うん。食べさせてあげるの、楽しかった。」

 そういうものか?と自分のご飯を一口スプーンに乗せて、セナへ差し出す。何のためらいもなく口を開いたセナが、ぱくりと食べた。
 …………なるほど。

「楽しいかも。」
「でしょ?」
「どこが?」

 セナからは肯定が、クラスメイトからは突っ込みが返ってきた。
 試しに、そいつの口へもスプーンを差し出してみる。名前は、マリオンだったかな?
 マリオンは、うろんげにスプーンを睨んでから口を開けて食べた。
 …………。

「自分で食ったらいいんじゃね?」
「楽しくないな。」

 俺も、それぞれで食べたらいいと思うよ。
 そう思いながらも、セナが出してきたスプーンを、ひょいと咥える。
 これは、美味しい。
 セナにスプーンを差し出す。セナが食べる。
 これは、楽しい。
 …………。
 俺たちは、その後は黙ってもくもくと食べた。時々、セナの口へ食べ物を運んで、俺の口へ入れてもらいながら。

「あ、分かった。」
「何?」
「セナと食べさせ合いをするのだけ、楽しい。」
「はあ?」

 マリオンが呆れた声を出したけれど、

「俺もー。」

 セナが同意してくれたから、まあ、いいか。
 マールクとガウナーが、クラスメイトと仲良く話している俺たちを気遣って、離れた席で食べてくれていたことに気付いたのは、また手を繋いで食堂を出る時だった。
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