【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

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小さな幸せを願った勇者の話

59 常識のある人

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「あの、もう一つ聞きたいことが。食堂はどこですか?」

 セナの言葉に、寮の管理人が呆れたような顔をした。

「こちらの寮の方々は、料理人も連れてきておられます。そこにキッチンがあるでしょう?」

 今度はこちらが呆れる番だ。

「朝晩の食事は付いていると聞きました。ここまでの会話で、俺たちが料理人や食材を準備できると思ったなら、あなたは相当、頭が悪い。」

 俺の言葉に、顔を歪める。

「一人分の寮費しか納められていないから、そもそもお前の食事はない。」
「では、こちらの二人の騎士の分は?」
「知らん。」
「やはり、魔法学校に通わせる気がないのでは?」
「こちらは、言われた仕事をしているだけだ。」
「言われた仕事を失敗しかけてると思いますが。」
「なんだと?」
「この流れなら、セナは魔法学校には通えません。帰ります。」

 帰ります、が必殺技みたいになってきたが、仕方なくないか?
 前世は、勇者の称号ありとはいえ身分は村人の俺は、食堂もあって、ベッドも机もクローゼットも付いている寮に入れてもらえてた。あちらの方がよほど良い。セナも隣の部屋を使っていて、食事や風呂は一緒に行っていたしな。そうだ、風呂。風呂も、共同浴場だからあちらの方が便利。掃除をしてもらえるし。
 監視の騎士が口を挟む。

「……食堂と風呂が使えないと、俺たちも困る。こちらで暮らせと言うなら、暮らせるようにしてくれ。」
「しかし、一人分の特待生料金しか宰相さまからは……。」
「この寮が使えるほどの寮費なら、あちらなら三つ四つ使えるんじゃないのか?この三人が部屋を使い、食堂を利用しても問題ないだろ。あちらの空き部屋を掃除しろ。同じ並びか近い場所で四つあけてこい。」
「そんな。三つしか空きはありません。」
「俺たちは一部屋で構わないから。」
「じゃ、三つ。準備できるまでここにいるけど、食堂は使うぞ。風呂も。」
「そ、そんな。」
「食堂に四人分追加と言ってこい。できないなら、四人で出てくわ。」
 
 騎士が、俺とセナの方を見ながら言った。
 え?出てく?
 
「この聖者さまに、魔法学校に通ってくれと言ったんだろ?レベル上げて、勇者さまと魔王を倒しに行ってもらうんだろ?じゃあ、通えるように環境を整えろよ。今までのところ、出ていけと言っているようにしか聞こえない。」
「そんな。こちらは、一人分の特待生を受け入れる準備をしていたのに、急に、二人の騎士を側にいられるようにしろと言われて、考えたというのに。それに、よく考えたらお前は何だ?」

 今ごろ?

「もう、何でもいいから、食堂に早く行けよ。今夜の飯が食えなくなったらどうする。」

 騎士に凄まれて、寮の管理人はぶつぶつと文句を言いながら、部屋を出ていった。
 俺たちと一緒に冒険者証を作った方の騎士は、ずっと黙って立っていたけれど、管理人が出ていったのを見て軽く肩をすくめる。

「残念。」
「え?」
「使いたかった。」

 冒険者証を見せるので首を傾げると、

「学校行かないなら、行けた。」
「確かに。」
「え、何でお前、そんなの持ってんの?」
「一緒に作った。」
「ずりぃ。俺も欲しい。」
「明日、作りに行きましょう。どうせ、一緒にいなきゃいけないんでしょ?」

 セナが言って、笑いあった。監視の騎士二人と打ち解けあえたのは、寮の管理人のお陰かもしれない、と思うと少し複雑だ。
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