50 / 211
小さな幸せを願った勇者の話
49 天罰?
しおりを挟む
「貴方が、そんなことをする必要は無かったの。そのために聖女がいるでしょう?」
「でも、お母さまはお元気そう。良かった。」
そう言って疲れたように王女は目を閉じる。
「マリエッタ。」
「ごめんなさい、お母さま。疲れてしまって。」
「マリエッタ……。」
「でももう、寒くないのよ。お母さまに祈った後から、とても寒かったのに……。」
目を閉じた王女は、支える侍女の腕にぐったりと体を預けた。
「早く、早く治癒魔法をかけなさい!」
王妃殿下の悲鳴のような声。宰相が慌ててこちらに走ってきて、聖女の鎖を引く。
「その子では駄目よ。あちらの神託の聖者を連れて来なさい。いえ、二人でおやり!」
「無理です。」
俺は声を上げた。
「死者の蘇生など、できません。」
「な、んですって?」
「姫様。マリエッタ殿下!」
侍女が王女を抱えたまま揺すぶる。揺すぶられるままに、くらんくらんと王女は揺れた。
「いや、いやあ!何故?治したのではないの?だから、目を覚ましたのではないの?」
「謀ったのか。神託の聖者と言うのも偽りか!」
「いいえ。間違いなくセナは神託の聖者です。」
「では何故、王女は……。」
「王女は病ではない。怪我もしていない。治癒魔法は効かない。」
「では何故死んだ!」
「何故、と、あなた方が聞くのですか?俺たちに。」
思わず、口角がつり上がる。笑える。先ほどの王女の話を聞けば、そこの王妃殿下を癒して生命力を使いきったのではないのか?
「俺たちが聞きたい。王女殿下は何故このような状態になられたのか。何故、魔力は枯渇して生命力まで魔力の代わりに使われ、お亡くなりになったのか。まだ、鑑定の儀も済まされていない王女殿下が、何の魔法をお使いになられたのですか?」
しん、と部屋の中が静まり返った。
セナが俺の手をぎゅうと握る。
「だ、黙れ……。神託の聖者などと言ってよくも我々を騙しおったな。お前が、お前たちが治癒魔法を失敗したから、王女殿下はお亡くなりになったのだ。そこの役に立たない女と共に牢に放り込んでおけ。」
近付いてくる護衛騎士に、俺は笑顔のままで聞いた。
「いいのか。逃げるためにこの城を吹き飛ばしても。」
護衛騎士は足を止めて、剣を手に魔術士を振り返る。
「防御結界を。皆様は避難……。」
『ぼん。』
先ほど出したより大きな火の玉を出して見せる。もちろん、人のいない場所に。
「きゃあああ!」
「うわあ!」
『我は護るべきものを護る。』
上がる悲鳴の中、セナが、俺と自分と聖女に防御をかけた。ずいぶんと短い詠唱で、無駄のない防御ができている。
俺は思わず大喜びでセナを振り返った。
「セナ、凄い。いつの間に?」
「ユーゴー、危ない!」
護衛騎士の剣が振り下ろされる。
警告はしたよな。
何度も。
『ごお。』
一陣の風が吹き去り、護衛騎士の腕は、ごとりと落ちた。腕と共に落ちた剣に当たらないよう、セナと避ける。
「う、うわあああああ!」
「いやあ!」
「きゃあああ!」
叫んでいるのは誰なのか。
扉が開いて、廊下から数人の騎士が踏み込んで来た。
「こ、こ、こやつらを……。」
宰相の震える声。
王妃殿下は気を失っているようだ。
「神託の聖者を牢に?」
俺の言葉に、全員が動きを止める。
「そりゃ、天罰も下るというものだ。」
「でも、お母さまはお元気そう。良かった。」
そう言って疲れたように王女は目を閉じる。
「マリエッタ。」
「ごめんなさい、お母さま。疲れてしまって。」
「マリエッタ……。」
「でももう、寒くないのよ。お母さまに祈った後から、とても寒かったのに……。」
目を閉じた王女は、支える侍女の腕にぐったりと体を預けた。
「早く、早く治癒魔法をかけなさい!」
王妃殿下の悲鳴のような声。宰相が慌ててこちらに走ってきて、聖女の鎖を引く。
「その子では駄目よ。あちらの神託の聖者を連れて来なさい。いえ、二人でおやり!」
「無理です。」
俺は声を上げた。
「死者の蘇生など、できません。」
「な、んですって?」
「姫様。マリエッタ殿下!」
侍女が王女を抱えたまま揺すぶる。揺すぶられるままに、くらんくらんと王女は揺れた。
「いや、いやあ!何故?治したのではないの?だから、目を覚ましたのではないの?」
「謀ったのか。神託の聖者と言うのも偽りか!」
「いいえ。間違いなくセナは神託の聖者です。」
「では何故、王女は……。」
「王女は病ではない。怪我もしていない。治癒魔法は効かない。」
「では何故死んだ!」
「何故、と、あなた方が聞くのですか?俺たちに。」
思わず、口角がつり上がる。笑える。先ほどの王女の話を聞けば、そこの王妃殿下を癒して生命力を使いきったのではないのか?
「俺たちが聞きたい。王女殿下は何故このような状態になられたのか。何故、魔力は枯渇して生命力まで魔力の代わりに使われ、お亡くなりになったのか。まだ、鑑定の儀も済まされていない王女殿下が、何の魔法をお使いになられたのですか?」
しん、と部屋の中が静まり返った。
セナが俺の手をぎゅうと握る。
「だ、黙れ……。神託の聖者などと言ってよくも我々を騙しおったな。お前が、お前たちが治癒魔法を失敗したから、王女殿下はお亡くなりになったのだ。そこの役に立たない女と共に牢に放り込んでおけ。」
近付いてくる護衛騎士に、俺は笑顔のままで聞いた。
「いいのか。逃げるためにこの城を吹き飛ばしても。」
護衛騎士は足を止めて、剣を手に魔術士を振り返る。
「防御結界を。皆様は避難……。」
『ぼん。』
先ほど出したより大きな火の玉を出して見せる。もちろん、人のいない場所に。
「きゃあああ!」
「うわあ!」
『我は護るべきものを護る。』
上がる悲鳴の中、セナが、俺と自分と聖女に防御をかけた。ずいぶんと短い詠唱で、無駄のない防御ができている。
俺は思わず大喜びでセナを振り返った。
「セナ、凄い。いつの間に?」
「ユーゴー、危ない!」
護衛騎士の剣が振り下ろされる。
警告はしたよな。
何度も。
『ごお。』
一陣の風が吹き去り、護衛騎士の腕は、ごとりと落ちた。腕と共に落ちた剣に当たらないよう、セナと避ける。
「う、うわあああああ!」
「いやあ!」
「きゃあああ!」
叫んでいるのは誰なのか。
扉が開いて、廊下から数人の騎士が踏み込んで来た。
「こ、こ、こやつらを……。」
宰相の震える声。
王妃殿下は気を失っているようだ。
「神託の聖者を牢に?」
俺の言葉に、全員が動きを止める。
「そりゃ、天罰も下るというものだ。」
55
お気に入りに追加
440
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
【完結】浮薄な文官は嘘をつく
七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。
イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。
父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。
イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。
カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。
そう、これは───
浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。
□『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。
□全17話
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
霧のはし 虹のたもとで
萩尾雅縁
BL
大学受験に失敗した比良坂晃(ひらさかあきら)は、心機一転イギリスの大学へと留学する。
古ぼけた学生寮に嫌気のさした晃は、掲示板のメモからシェアハウスのルームメイトに応募するが……。
ひょんなことから始まった、晃・アルビー・マリーの共同生活。
美貌のアルビーに憧れる晃は、生活に無頓着な彼らに振り回されながらも奮闘する。
一つ屋根の下、徐々に明らかになる彼らの事情。
そして晃の真の目的は?
英国の四季を通じて織り成される、日常系心の旅路。
BLドラマの主演同士で写真を上げたら匂わせ判定されたけど、断じて俺たちは付き合ってない!
京香
BL
ダンサー×子役上がり俳優
初めてBLドラマに出演することになり張り切っている上渡梨央。ダブル主演の初演技挑戦な三吉修斗とも仲良くなりたいけど、何やら冷たい対応。
そんな中、主演同士で撮った写真や三吉の自宅でのオフショットが匂わせだとファンの間で持ち切りに。
さらに梨央が幼い頃に会った少女だという相馬も現れて──。
しゅうりおがトレンドに上がる平和な世界のハッピー現代BLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる