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小さな幸せを願った勇者の話
41 使えません
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「は?城?」
「ああ、まずは城へ挨拶に行くはずだ。兄を呼ばないと。」
王都へ着いて、まずはハロンの家へ直行した。ハロンが家へ入って少ししたら、真っ青な顔をして痩せた男が騎士服を着て出てきた。
「ああ、ああ、良かった。神よ、感謝します。」
感謝してるとこ悪いが、たぶん、今回のあなたの不運は神の采配だぞ。俺かセナに辛い思いをさせたり、孤立させるためのな。
「ハロンの馬鹿のせいで、生きた心地がしなかった。私が、聖者さまを迎えに行っていることになっているから隠れていなくてはいけなかったし、帰ってこなければそのまま姿を消さないといけない所だった。」
それから、馬車の影に隠れるようにしていた御者の方を向いた。
「ミルカ、お前まで何故……。」
御者の名前はミルカと言うのか。十日以上一緒に旅をしていたが、今初めて知ったよ。まあ、もうすぐお別れだが。
青い顔で頭を下げているミルカに詰め寄ろうとして、俺たちに気付いたらしい。
「神託の聖者さまでいらっしゃいますか。」
俺の方を向いて問うので、セナの方へ目線をやる。
「セナと言います。」
セナがぺこりと頭を下げて挨拶をした。
「あ。」
慌てて男も頭を下げる。
「ハロンの兄のハルクです。私が、貴方をお迎えに行く予定だったのですが、弟が勝手に出てしまいまして心配しておりました。あの。何事もなく……?」
顔色も悪く痩せてしまっているが、俺たちの村まで神託の聖者の迎えを任されるような騎士らしく、礼儀正しく挨拶をした。ハロンと同じ血筋とは思えない。
「この馬車は凄いですね。魔物は近寄れませんでしたよ。」
セナがにこにこと笑って答えるので、ハルクは、ほっとしたようだった。
それから、俺の方を見る。ああ、そうだった。俺は今、肩書きの無い子ども。
「こんにちは。俺はセナの護衛です。ユーゴーと言います。」
「護衛……?」
「ええ。セナは神託は受けましたが、魔法を使える訳ではありませんし、剣の腕もからっきしです。一人では危ないので。」
「そう…か。魔法を使えない?」
「はい。神託があるほど魔力が多いのかもしれませんが、使い方を習わなければ使えないでしょう?」
ハルクは息を呑んで、大きく目を見開いた。
「では、聖者さまは治癒魔法は……。」
「使えませんよ。」
「結界は……。」
「魔法学校に通わせて頂けるとのことなので、頑張って勉強しようと思います。」
俺のきっぱりとした答えとセナの明るい笑顔での言葉に、ハルクはまた絶句した。
なんだ、この反応は?
神託の聖者ともなれば、生まれつき治癒魔法や結界を垂れ流しているとでも思っていたのか?
本当はどちらもそれなりに使えるが、先日の神託で自分の能力を知った、という設定なので、俺たちは首をかしげておく。
「……分かりました。このまま王城へ向かっても大丈夫でしょうか。」
たっぷりと時間をかけて驚いてから、ハルクは俺たちに告げたのだった。
「ああ、まずは城へ挨拶に行くはずだ。兄を呼ばないと。」
王都へ着いて、まずはハロンの家へ直行した。ハロンが家へ入って少ししたら、真っ青な顔をして痩せた男が騎士服を着て出てきた。
「ああ、ああ、良かった。神よ、感謝します。」
感謝してるとこ悪いが、たぶん、今回のあなたの不運は神の采配だぞ。俺かセナに辛い思いをさせたり、孤立させるためのな。
「ハロンの馬鹿のせいで、生きた心地がしなかった。私が、聖者さまを迎えに行っていることになっているから隠れていなくてはいけなかったし、帰ってこなければそのまま姿を消さないといけない所だった。」
それから、馬車の影に隠れるようにしていた御者の方を向いた。
「ミルカ、お前まで何故……。」
御者の名前はミルカと言うのか。十日以上一緒に旅をしていたが、今初めて知ったよ。まあ、もうすぐお別れだが。
青い顔で頭を下げているミルカに詰め寄ろうとして、俺たちに気付いたらしい。
「神託の聖者さまでいらっしゃいますか。」
俺の方を向いて問うので、セナの方へ目線をやる。
「セナと言います。」
セナがぺこりと頭を下げて挨拶をした。
「あ。」
慌てて男も頭を下げる。
「ハロンの兄のハルクです。私が、貴方をお迎えに行く予定だったのですが、弟が勝手に出てしまいまして心配しておりました。あの。何事もなく……?」
顔色も悪く痩せてしまっているが、俺たちの村まで神託の聖者の迎えを任されるような騎士らしく、礼儀正しく挨拶をした。ハロンと同じ血筋とは思えない。
「この馬車は凄いですね。魔物は近寄れませんでしたよ。」
セナがにこにこと笑って答えるので、ハルクは、ほっとしたようだった。
それから、俺の方を見る。ああ、そうだった。俺は今、肩書きの無い子ども。
「こんにちは。俺はセナの護衛です。ユーゴーと言います。」
「護衛……?」
「ええ。セナは神託は受けましたが、魔法を使える訳ではありませんし、剣の腕もからっきしです。一人では危ないので。」
「そう…か。魔法を使えない?」
「はい。神託があるほど魔力が多いのかもしれませんが、使い方を習わなければ使えないでしょう?」
ハルクは息を呑んで、大きく目を見開いた。
「では、聖者さまは治癒魔法は……。」
「使えませんよ。」
「結界は……。」
「魔法学校に通わせて頂けるとのことなので、頑張って勉強しようと思います。」
俺のきっぱりとした答えとセナの明るい笑顔での言葉に、ハルクはまた絶句した。
なんだ、この反応は?
神託の聖者ともなれば、生まれつき治癒魔法や結界を垂れ流しているとでも思っていたのか?
本当はどちらもそれなりに使えるが、先日の神託で自分の能力を知った、という設定なので、俺たちは首をかしげておく。
「……分かりました。このまま王城へ向かっても大丈夫でしょうか。」
たっぷりと時間をかけて驚いてから、ハルクは俺たちに告げたのだった。
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