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小さな幸せを願った勇者の話

40 善人

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「王都へ帰らせてくれ。」

 ハロンのその言葉に素直に、うんと言えるような性格を俺は持ち合わせていない。しかし、セナはあっさり頷いた。

「帰る気になってくれて良かった。」

 正直、その気持ちは欠片も理解できないが、そのまま三人で馬車の所へ戻ると御者も喜んだので、俺だけが置いていけと言ったところで禍根が残るだろうと思い、口をつぐんだ。
 帰り道に屋台で買った安いピタパンをハロンが必死で食べる姿にも、呆れた気持ちしか湧いてこない。
 セナは、もう少し食べ応えのあるものを買ってあげよう、と言ったがこれだけは譲らなかった。俺たちはこれだけで二日近く過ごしたんだぞ?同じように扱ってもどこからも文句は出ないだろう。

「自分がされて嫌なことを人にしちゃ駄目だよ、ユーゴー。」

 無能な聖者になると宣言した俺の聖者さまは、やはり生まれながらの善人らしい。こんな人々に治癒魔法なんて与えるから、あっという間に生命力を使い果たしてしまうのだ。
 この生まれつきの性分は変わることはないだろう。命にかかわる病気や怪我をした人やその家族、知人が涙なからに懇願したら治癒魔法を使ってしまいかねない。
 とにかく治癒魔法を使わないことを言い聞かせて、側から離れないようにしよう、と決意を固めた。

 そこからは、ただ順調に進んだ。街道の魔物は、王都へ向かうにつれ、どんどん強くなっていくので、行き交う人も少なくなって、町の宿屋も数は減っていく。昼ごはんのためにどこかの町へ寄ることはやめ、宿屋を発つ前に持ち帰りの食べ物を買い込むことにした。
 一日中、魔物のうなり声を聞きながら馬車を走らせて、少し早めに泊まる予定の町へ入る。そうして、数少ない宿を確保し、朝晩のご飯は宿の食堂で落ち着いて食べた。
 教会に行く暇もなくなり、聖女を救うことができないのは残念だが、町中をうろつくならもう一泊覚悟しなければならない。騒ぎを起こしても、すぐに逃げ出せる様子では無くなってきたこともある。
 急ぐこともないか。今、救えなかった聖女には申し訳ないが、そのうち魔王を倒す旅ではなく、聖女を救う旅に出るから待っていてもらおう。
 俺たちはほとんど予定通りの日数で王都に着いた。
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