【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

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小さな幸せを願った勇者の話

8 光の腕輪

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 ふむ、と考えたセイマさんは、腕に付けていたシンプルな腕輪を外してセナに渡した。

「セナ、これを右手に持って。」

 そしてセナの左手を握り、光の魔力を流し始める。

「わあ、あったかい。何これ?」
「その暖かいものを自分で動かせるかな?」
「動かす……?」
「体の中をぐるっと巡らせて右手から出して。」

 んー?と言いながらも少しずつ魔力が腕を上っていくのが分かる。流石はセナ。神に選ばれしもの。……今はまだ選ばれてないけど。
 セイマさんが渡した魔力は、セナの中でどんどん力を増して大きく体を巡った。右手から出てくる頃には、セイマさんの匂いはほとんど消えてセナのものとなっている。その大きな力が、すうっと右手に持った腕輪に吸い込まれていった。
 息を詰めて様子を見守っていたセイマさんが、ほうっと息を吐く。

「凄いな……。」

 ぽつりと呟いた声は、困惑を含んでいた。

「できた、かな?」

 不安げに見上げる息子へは、にこりといつもの優しい笑みを浮かべる。

「凄いよ、セナ。とても上手だった。」

 そう言ってセナの頭を撫でると、きらきらとした装飾が浮かび上がった腕輪を、俺の左腕にはめた。
 ふわりとセナの魔力に包み込まれた、ような感覚が広がる。すうっと体が軽くなった。体調が良かった頃と同じ。

「どう?」

 と聞きながらもセイマさんには分かったらしい。
 
「もう大丈夫。」
「それは良かった。それ、その腕輪あげるから、セナに魔力をこめてもらって。無くなりかけたら分かるよね?」
「はい。」
「セナも、今何も問題はない?」
「うん。」

 俺はその日、光の腕輪を手に入れて、それ以降倒れることも不調になることも無くなった。セナは腕輪に魔力をこめることで、どんどんと魔力の扱いに慣れて、魔力量も増えているようだ。
 セイマさんは、セイン兄さんにもセイラにも魔力の扱いを教えてみたら、兄さんもセイラも簡単に光の玉を作り出した。

「うちは皆、魔力量がすごいんだな……。」

 そう言ったセイマさんは、時間のある時には、俺たち四人に魔力の使い方を教え、注意点を教えてくれるようになった。

「治癒魔法は、なるべく使わないようにするんだよ。あれは、魔力が無くなったら生命力を魔力に変えても発動しようとする恐ろしい術だ。」
「止められないってこと?」
「ああ。自分の魔力で足りそうだと判断して治癒魔法をかけ始め、思っていたより怪我が酷くて魔力が足りなくなるとするだろう?そこで、普通の攻撃魔法や防御魔法なら魔法が消えて終わるんだが、治癒魔法は止まらない。生命力を代替に発動し続ける。つまり、術者の命が削られるんだよ。」
「…………。」
「失ったものは戻らないから傷は塞げても血が流れすぎたら死ぬ。生命力を削っても助けられるとは限らない。」
「そういうことか……。」
「そして、治癒の前に必ず、病気は治せないとはっきり言うんだ。」
「治せないの?」
「ああ。怪我のように見えている訳じゃないんだからね。もし治癒を頼まれたら、俺たちにできることは、どこに悪いところがあるか調べることだけだと必ず言ってから治療するんだよ。」

 治癒魔法は、ちっとも万能では無いことを初めて知った。セイマさんは、きっと何度も生命力を削ったことがあるのだろう。
 子ども達に真剣に、薬の使い方や怪我の手当ての仕方を教えるセイマさんを見て何となくそんなことを思った。
 光の腕輪を俺に渡した彼は、一気に年を取ったように見えたから……。
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