31 / 49
参拾壱 真実はどこに?
しおりを挟む
翌日の早朝のことである。明け六つ刻(午前六時頃)に、清兵衛商店の居住側の戸が叩かれた。
ほとんど眠ることもできずにいた清兵衛とおきくは、手早く夜着を脱いで着替える。警戒しながら開いた戸の先に武士の姿を見て、二人で身構えてしまった。
「このような時刻に申し訳ない。拙者は、綾ノ部藩家中の杉谷知徳と申す。こちらは、清兵衛の家で相違ないか」
「へえ。清兵衛でございます」
「我が藩の藩主志木政景さまのお子、作次郎さまが一年世話になっていたと聞いたが、相違ないか」
「は?あ、いえ。作次、のことでございましょうか」
「作次郎さまは、作次と名乗っておられたのか」
「……その、作次郎さまと作次は、同じお人なのでしょうか?」
昨日の武士達とは様子が違うようだと思った清兵衛が、ぽろりと言うと、知徳は眉を寄せた。
「行方知れずの作次郎さまだと分かって、こちらから帰られたのではないのか?」
「いえ。いいえ。そんな話は知りません!作次は、無理やり連れていかれたんです。大判二両投げつけて、当て身を食らわせた作次をひっかついで、訳も分からねえまま、拐っていきやがったんでさ」
「やはり、早くに来て良かった……」
低い声で呟いた知徳に、はっと清兵衛は我に返った。慌ててその場に膝を付き平伏する。
「申し訳ありません。ご無礼を」
「いや、立ってくれ。話がしづらい」
「は、はい」
「それで、その作次はいつからこの店に?」
「うちに手伝いにきてから十月とは経っていないと思います」
「こちらで住み込みではないのか」
「通いです。与兵衛長屋に、おみつと二人で住んでおります」
「作次郎さまが世話になっていたのは、そのおみつという女人か」
「女人というか、その、作次と年齢は変わらねえと思いますが」
「子ども二人で生活を?」
「二人ともしっかりしてるから、気にしたこたぁなかったなあ、おきく」
「ええ。もう若夫婦みたいに皆、思ってますよ。作ちゃんがおみっちゃんにベタ惚れで。可愛いんですよ」
おきくは明るく答えてから、はたと思い出したらしい。みるみる目に涙を滲ませて、うつむいた。
「おみっちゃん、どうしているかしら……」
清兵衛は、また膝を付いて頭を下げた。
「杉谷さま。お願いします。何かの間違いです。作次は、そんな大層な若様なんかじゃございません。うちの店にも、おみつにも必要な商人の作次です。大判は、お返しします。作次を返してくだせえ」
ほとんど眠ることもできずにいた清兵衛とおきくは、手早く夜着を脱いで着替える。警戒しながら開いた戸の先に武士の姿を見て、二人で身構えてしまった。
「このような時刻に申し訳ない。拙者は、綾ノ部藩家中の杉谷知徳と申す。こちらは、清兵衛の家で相違ないか」
「へえ。清兵衛でございます」
「我が藩の藩主志木政景さまのお子、作次郎さまが一年世話になっていたと聞いたが、相違ないか」
「は?あ、いえ。作次、のことでございましょうか」
「作次郎さまは、作次と名乗っておられたのか」
「……その、作次郎さまと作次は、同じお人なのでしょうか?」
昨日の武士達とは様子が違うようだと思った清兵衛が、ぽろりと言うと、知徳は眉を寄せた。
「行方知れずの作次郎さまだと分かって、こちらから帰られたのではないのか?」
「いえ。いいえ。そんな話は知りません!作次は、無理やり連れていかれたんです。大判二両投げつけて、当て身を食らわせた作次をひっかついで、訳も分からねえまま、拐っていきやがったんでさ」
「やはり、早くに来て良かった……」
低い声で呟いた知徳に、はっと清兵衛は我に返った。慌ててその場に膝を付き平伏する。
「申し訳ありません。ご無礼を」
「いや、立ってくれ。話がしづらい」
「は、はい」
「それで、その作次はいつからこの店に?」
「うちに手伝いにきてから十月とは経っていないと思います」
「こちらで住み込みではないのか」
「通いです。与兵衛長屋に、おみつと二人で住んでおります」
「作次郎さまが世話になっていたのは、そのおみつという女人か」
「女人というか、その、作次と年齢は変わらねえと思いますが」
「子ども二人で生活を?」
「二人ともしっかりしてるから、気にしたこたぁなかったなあ、おきく」
「ええ。もう若夫婦みたいに皆、思ってますよ。作ちゃんがおみっちゃんにベタ惚れで。可愛いんですよ」
おきくは明るく答えてから、はたと思い出したらしい。みるみる目に涙を滲ませて、うつむいた。
「おみっちゃん、どうしているかしら……」
清兵衛は、また膝を付いて頭を下げた。
「杉谷さま。お願いします。何かの間違いです。作次は、そんな大層な若様なんかじゃございません。うちの店にも、おみつにも必要な商人の作次です。大判は、お返しします。作次を返してくだせえ」
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
146
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる