【完結】ふたり暮らし

かずえ

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参拾壱 真実はどこに?

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 翌日の早朝のことである。明け六つ刻(午前六時頃)に、清兵衛商店の居住側の戸が叩かれた。
 ほとんど眠ることもできずにいた清兵衛とおきくは、手早く夜着を脱いで着替える。警戒しながら開いた戸の先に武士の姿を見て、二人で身構えてしまった。
 
「このような時刻に申し訳ない。拙者は、綾ノ部あやのべ藩家中の杉谷すぎたに知徳とものりと申す。こちらは、清兵衛の家で相違ないか」
「へえ。清兵衛でございます」
「我が藩の藩主志木しき政景まさかげさまのお子、作次郎さまが一年世話になっていたと聞いたが、相違ないか」
「は?あ、いえ。作次、のことでございましょうか」
「作次郎さまは、作次と名乗っておられたのか」
「……その、作次郎さまと作次は、同じお人なのでしょうか?」

 昨日の武士達とは様子が違うようだと思った清兵衛が、ぽろりと言うと、知徳は眉を寄せた。

「行方知れずの作次郎さまだと分かって、こちらから帰られたのではないのか?」
「いえ。いいえ。そんな話は知りません!作次は、無理やり連れていかれたんです。大判二両投げつけて、当て身を食らわせた作次をひっかついで、訳も分からねえまま、拐っていきやがったんでさ」
「やはり、早くに来て良かった……」

 低い声で呟いた知徳に、はっと清兵衛は我に返った。慌ててその場に膝を付き平伏する。

「申し訳ありません。ご無礼を」
「いや、立ってくれ。話がしづらい」
「は、はい」
「それで、その作次はいつからこの店に?」
「うちに手伝いにきてから十月とつきとは経っていないと思います」
「こちらで住み込みではないのか」
「通いです。与兵衛長屋に、おみつと二人で住んでおります」
「作次郎さまが世話になっていたのは、そのおみつという女人にょにんか」
女人にょにんというか、その、作次と年齢としは変わらねえと思いますが」
「子ども二人で生活を?」
「二人ともしっかりしてるから、気にしたこたぁなかったなあ、おきく」
「ええ。もう若夫婦みたいに皆、思ってますよ。作ちゃんがおみっちゃんにベタ惚れで。可愛いんですよ」

 おきくは明るく答えてから、はたと思い出したらしい。みるみる目に涙を滲ませて、うつむいた。

「おみっちゃん、どうしているかしら……」

 清兵衛は、また膝を付いて頭を下げた。

「杉谷さま。お願いします。何かの間違いです。作次は、そんな大層な若様なんかじゃございません。うちの店にも、おみつにも必要な商人の作次です。大判は、お返しします。作次を返してくだせえ」
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