【完結】ふたり暮らし

かずえ

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弐拾弐 筋書き

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 風呂上がりに着せられた着物が小さすぎて、作次は笑ってしまいそうだった。これは、去年のおいらの物か。丈が短いだけでなく、身幅もきつくて、きちんと着られない。

「体格が合わないか」

 その姿を見て、橘が舌打ちするが、一年経っているのだから当然のことだ、と思う。
 どうやら橘は、作次のことを、作次郎の本物かもしれない、とは露ほども思っていないようだった。
 これは、好都合である。
 とりあえず、父がいる間に事を起こすことはないだろう。そういえば、母が死んだことを父はどう思っているのだろうか。自分がいなかったことは?
 一年間、ろくろく思いもしなかったことが様々に気になってきて、緊張してくる。
 ここまでしているのだから、父の元へ連れていくんだよな。どういう筋書きにするつもりなのか。

「仕方ない。一之進いちのしんさまの着物をお借りしよう。少々古くても構わないだろう。三葉、借りてこい」
「お借りするにあたり、何と申し上げればよろしいのでしょうか」
「ああ。どうせすぐに分かることだ。作次郎さまが見つかった、と申し上げれば良い」
「かしこまりました」

 兄の着物を借りるらしい。
 三葉が平伏してから出ていく。不格好で窮屈な着物を着せられた作次と橘が部屋に残った。

「さて。お前は今から、この屋敷の若君、作次郎さまとなる。一年前、近隣で火事があった時に行方知れずとなられた御方だ」

 作次は、は?という顔を作って見せた。

「行方知れずとの報告は国元へしてあったのだが、殿がどうしてもご納得なさらない。遺体もないのに、行方知れずとそれで終わるとは、捜し方が足りぬと仰せでな。あまりに煩いので、お前を代役に立てることとした」
「お捜しにはならねえんで?」

 作次はここに来て初めて口を開いた。わざと、商人言葉を頑張って丁寧にしています、というように話す。
 橘は、不快そうに眉をしかめたが、溜め息を吐いただけで、返事を返してきた。

「武家の若君が、何も持たずに一年、どうやって生きるというのだ。無駄なことはせぬ」

 死んでいて欲しいんだよな、と今度は作次が溜め息を吐きそうだった。

「それを仰っては如何で?」
「遺体が出ぬうちは、あきらめてはならぬと仰せなのだ。厄介なことだよ」

 と、いうことは。
 作次は気付いてしまった。父がいる間は、こうして代役で誤魔化して、父がまた領地へ帰った途端に、作次を殺して遺体をつくるつもりなのだ。
 冗談じゃねえぞ。
 行方知れずでは父が納得しないと分かった以上、作次を確実に仕留めにくるだろう。作次のことをその辺の町人だと思っているので、若様の時よりあっさり簡単にやられそうである。

「おいらに武家の若様ができるわけありませんや」
「分かっている。とりあえず、極力口は開くな。筋書きはこうだ。一年前の火事で記憶を失い、さ迷っている所を町の者に拾われた。そのまま、町で暮らしていた。それを我々が見つけた。記憶を失っているため作次郎さまと分からなかったが、見た目があまりに似ていることと、お前を一年前に拾ったと店の者が言っていたので、こちらにお連れした。ここにいるうちに何か思い出すかもしれないため、暫く様子を見ようと思っている」

 何ともいい加減なその筋書きはやっぱり、一年誤魔化した後で遺体を作る、と言っているように作次には聞こえたのだった。
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