【完結】ふたり暮らし

かずえ

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拾参 笑顔は無料

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 作次が働くようになってから、清兵衛の店は更に繁盛した。
 姿絵の一つの、少年剣士と作次がそっくりだと評判になったのである。
 まるで、人気の役者を一目見ようとするように、店には人だかりができて、人が集まれば、品物もよく売れた。
 はじめは戸惑っていた作次だったが、品物がよく売れて、思っていたよりたくさんの給金がもらえると、商人は何を利用しても売れたら勝ちだ、と腹をくくった。
 稼いだ金で、可愛いかんざしを一つ買っておみつに贈ることができてからは、更に笑顔に磨きがかかる。

「作ちゃーん」

 と、呼び掛けられれば愛想よく手を振り、増える女性客に笑顔で対応した。

「てえしたもんだよ、作ちゃんは」

 夕刻、店を閉めて片付けをしながら、店主の清兵衛は作次に声をかけた。

「へ?」
「あんなに女性客に囲まれて、堂々としてるなんて、あっしには無理だ」
「小さいときから男前だと、そんなことにも慣れてるのかい?」

 清兵衛の妻のおきくも、片付けながら頷く。

「おいら、男前なんですかね?」
「男前だよ。言われたことないかい?」
「あまり覚えがねえけど」
「そんなわけ無いやね。言われてても、気付いちゃいねえんだろう」
「あの姿絵も、おいらは似てるとは思わねえんだけど、似てるんですか?」
「ああ。たぶん、作ちゃんをひな型にしてるんだろう。あの絵の作者は、与兵衛長屋の住人だからな」
「ええ?」

 同じ長屋に住んでいる絵師が描いているとは知らなかった。

「絵師なんていらっしゃったんですね」
「ああ。絵の仕事で食っていけねえからって働きに出て、空き時間に絵を描いてたんだが、それも売る手段がねえとしょぼくれててね。うちで置いてやると預かったんだが、売れて売れて」
「でも、おいらは会ったことありませんよ」
「最近、来ねえから心配だったんだよ。絵も売り切れちまったし、また描いてほしいんだが」
「帰って声をかけてきます」
「売上金も渡してくれるかい?貯まってるんだよ」

 一枚一枚手で描いてるなら、相当な手間だろう。仕事の合間ならそんなにたくさん描けないだろうし、これだけで食っていくのは難しいだろうなあ。
 一枚当たりの値段は十六文。店の取り分を引いて、売れた枚数の銭を預かる。
 十六文あれば、おいらなら団子を四本食うなあ、なんて思いながら、作次は長屋へと帰った。
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