95 / 96
快璃の章
18
しおりを挟む
絶望の表情を浮かべた玻璃は、もう二度と口を開くことは無かった。
「俺たちの話は以上だ。帰らせてもらう。」
帝は全く納得しておらず、まだ呪を解くことを諦めていない様子であった。しかし、目の前の玻璃と自分の命を優先することにしたようである。
「俺たちに何かあればこの城は、即日落とされる。と言っても信じられないだろうな。俺たちが無事に帰るまで、玻璃もこのまま共にいてもらうよ。」
「どこへ帰るか知らぬが、すぐに兵をやる。」
「そうしたら、すぐに玻璃を殺す。……最後の帝が貴方であろうと玻璃であろうと、俺はどちらでも構わない。」
それは、絶縁宣言だった。父のことも玻璃のことも、嫌っていた訳ではない。玻璃の時戻しの術式のお陰で、生きてここにいるのかもしれない。俺は、最愛の透子と結ばれ、子どもにも会えた。幸せな時を過ごしていると言ってもいい。
今、重要なのは、みこを守ること。
父と兄が、息子の身柄を狙ってくるというなら、排除するまでだ。
絶句している父を置いて、俺たちは立ち上がった。術士に声をかける。
「お前も、転移の術式は展開できるのか?」
「さて?」
「できるなら、ここから移動させてくれ。その報酬に解放しよう。」
「致しましょう。茶番に飽きました。稀代の術士は、その力を失ったようだ。」
彼の縄をほどき、隠れ家まで帰してもらう。術士が自分だけで転移して逃げたなら、それも仕方ないと思っていたが、しっかりと送り届けてくれた。彼はそのまま、すぐに姿を消した。もう暁の国に来ることはない、と言って。
彼は、渡した術式を発動させた術士の顛末を知りたかったので付き合っていただけだったのだろう。きっと、いつでも逃げられたに違いない。もとはと言えば、あの術士が、時戻しの術式なんて言うものを玻璃に渡さなければ、こんなことにはなっていなかったのかもしれない。けれど、あの術式を欲したのは玻璃で、運悪く発動させることができてしまった。
愛しいと思った相手の隣に立つためだけに。
何度も、何度も人生をやり直し、共に生き続けた。
次こそは、と思うたびに、様々な策を巡らすたびに、透子の心がどこにあるかを知る。
その心が、手に入らない絶望を深めながらやり直し続けたのだ。
俺たちは、一人で生まれてこられたなら、良かったのだろうか……。
よく似た作りの兄の顔を見ながら、その絶望を思った。
「俺たちの話は以上だ。帰らせてもらう。」
帝は全く納得しておらず、まだ呪を解くことを諦めていない様子であった。しかし、目の前の玻璃と自分の命を優先することにしたようである。
「俺たちに何かあればこの城は、即日落とされる。と言っても信じられないだろうな。俺たちが無事に帰るまで、玻璃もこのまま共にいてもらうよ。」
「どこへ帰るか知らぬが、すぐに兵をやる。」
「そうしたら、すぐに玻璃を殺す。……最後の帝が貴方であろうと玻璃であろうと、俺はどちらでも構わない。」
それは、絶縁宣言だった。父のことも玻璃のことも、嫌っていた訳ではない。玻璃の時戻しの術式のお陰で、生きてここにいるのかもしれない。俺は、最愛の透子と結ばれ、子どもにも会えた。幸せな時を過ごしていると言ってもいい。
今、重要なのは、みこを守ること。
父と兄が、息子の身柄を狙ってくるというなら、排除するまでだ。
絶句している父を置いて、俺たちは立ち上がった。術士に声をかける。
「お前も、転移の術式は展開できるのか?」
「さて?」
「できるなら、ここから移動させてくれ。その報酬に解放しよう。」
「致しましょう。茶番に飽きました。稀代の術士は、その力を失ったようだ。」
彼の縄をほどき、隠れ家まで帰してもらう。術士が自分だけで転移して逃げたなら、それも仕方ないと思っていたが、しっかりと送り届けてくれた。彼はそのまま、すぐに姿を消した。もう暁の国に来ることはない、と言って。
彼は、渡した術式を発動させた術士の顛末を知りたかったので付き合っていただけだったのだろう。きっと、いつでも逃げられたに違いない。もとはと言えば、あの術士が、時戻しの術式なんて言うものを玻璃に渡さなければ、こんなことにはなっていなかったのかもしれない。けれど、あの術式を欲したのは玻璃で、運悪く発動させることができてしまった。
愛しいと思った相手の隣に立つためだけに。
何度も、何度も人生をやり直し、共に生き続けた。
次こそは、と思うたびに、様々な策を巡らすたびに、透子の心がどこにあるかを知る。
その心が、手に入らない絶望を深めながらやり直し続けたのだ。
俺たちは、一人で生まれてこられたなら、良かったのだろうか……。
よく似た作りの兄の顔を見ながら、その絶望を思った。
60
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる