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刃の章

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 ようやく、本題に戻れた。そして、快璃かいりさまは正しい。そう、初めましての挨拶が正しいのだ。透子とうこさんは、その手からいなくなった子どもへの思いが強すぎたのだろう。挨拶を忘れてしまったのだ。

「みこ。俺の話を聞いてほしい。分からない所があれば、まりに聞いて理解してもらいたい。」

 そして、快璃かいりさまは分かる範囲のこれまでの話をされた。こうして今、みこが存在していることについての話を。
 みこは、ずっと俺の服を握りしめて聞いていた。

「みこの父は俺で、母はこの透子とうこだ。それは本当のことなんだ。急に言われて困るかもしれないが、事実として受け入れてほしい。もちろん、まりが育ての親であることを否定したりしない。」

 みこは頷いて、それからまりさんを見た。まりさんは、久しぶりに会う主人を前に困っているのだろう。とても困惑した顔で、口を開いた。

「みこが育った所は、身分制度の無い国でした。皆が平等で、だから私が、みこと私より姫様を優先することが全く理解できていないのだと推測します。」
まり。私を優先することなんてないわ。私はもう、何の身分も持たない平民になったの。私たちは、主従ではない。みこを、ずっと守って育ててくれてありがとう。」
「すみません。……すみません、透子とうこさま。私は、すっかり親の気分で。」
「貴女が、親でしょう。育ててくれたでしょう。みこが納得いくようにしてあげて。」
「名前は、透璃とうりではなくみこのままが良いと言っております。昔、女みたいで嫌だと駄々をこねたくせに……。」
「オカアサン。そんなこと言わなくてもいいです。」

 不意にみこが声を上げた。

「へえ。みこって名前、嫌だったの?」
「女みたいと、みんなに言われたからです。」

 何となくくだけた雰囲気にほっとして軽口をたたくと、一生懸命こちらの言葉で返事をしてくれる。いつの間にか、俺の服を掴んでいた手は離れていた。
 もっと色々、話を聞きたいと思っていると、快璃かいりさまがにこにこと笑ってみこを見ていた。

「みこ。まり。二人の話もたくさん聞かせてくれ。何でも知りたい。」
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