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刃の章
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「私は、快璃の伴侶です!」
透子さんが叫ぶ。
「そう。いつも、そうなんだ。いや、伴侶にまでなってしまったのは、今回が初めてだよ。いつも、そんなことになる前に邪魔をして引き離して、快璃を消そうと頑張っているのに、何故か透子まで一緒にいなくなってしまう。」
玻璃皇子は、本当に困った顔をして呟いた。まるで、自分の頑張りが認めてもらえなくて不貞腐れている子どものようだ。
「私は、快璃を愛しています。貴方の気持ちには答えられない。」
「知っている。だから、快璃にいなくなってもらおうと思ったんだよ。そうしたら、同じ顔の私をみてくれるだろう?」
「いいえ。同じだと思ったことなどありません。二人は、別人です。いつも、いつでも。」
「君はいつもそう言った。だから、好きなんだ。」
「ならば、快璃がいなくなったとて、私が貴方のところへ行くなどあり得ないと気付くでしょう?」
「何故?私たちは、ほとんど同じなのに。」
「全く違う!」
悲鳴のような透子さんの声。
「玻璃。しっかりしてくれ。俺たちは一緒に生まれたけれど、同じじゃない。」
快璃さまの短い髪が揺れる。顔の作りはそっくりだけれど、二人はそれ以外に似ていると思える所はなかった。
「何度やり直しても、私に気持ちをくれないんだ……。」
「記憶が無いときも、私は出会う度に快璃に特別な気持ちを抱きました。それは、まるで運命のように感じるほどに。やり直すほど、はじめから愛しかった。一番初めは、きっとそうでは無かったかもしれない。子どもの小さな初恋だったのかもしれない。けれど、今はもう違う。魂に刻まれてしまった気持ちは、決して消えることはないでしょう。」
「同感だ。玻璃。どうしても、それは消えない。やり直せない。」
玻璃皇子から、表情が消えた。
「快璃さまと透子さまは、記憶が無くてもご結婚なさいました。玻璃皇子はあっさりと他の方と結ばれた。記憶の無いこのたびの人生は、とても穏やかに過ごしておられた。あなたの魂に、透子さまへの思いは刻まれていなかった。それで、良かったのに。私のしたことは正しかったと思っていたのに……。」
真鶴の掠れた声。
「私は、あなたが穏やかに過ごせたらそれで良かったのです。」
透子さんが叫ぶ。
「そう。いつも、そうなんだ。いや、伴侶にまでなってしまったのは、今回が初めてだよ。いつも、そんなことになる前に邪魔をして引き離して、快璃を消そうと頑張っているのに、何故か透子まで一緒にいなくなってしまう。」
玻璃皇子は、本当に困った顔をして呟いた。まるで、自分の頑張りが認めてもらえなくて不貞腐れている子どものようだ。
「私は、快璃を愛しています。貴方の気持ちには答えられない。」
「知っている。だから、快璃にいなくなってもらおうと思ったんだよ。そうしたら、同じ顔の私をみてくれるだろう?」
「いいえ。同じだと思ったことなどありません。二人は、別人です。いつも、いつでも。」
「君はいつもそう言った。だから、好きなんだ。」
「ならば、快璃がいなくなったとて、私が貴方のところへ行くなどあり得ないと気付くでしょう?」
「何故?私たちは、ほとんど同じなのに。」
「全く違う!」
悲鳴のような透子さんの声。
「玻璃。しっかりしてくれ。俺たちは一緒に生まれたけれど、同じじゃない。」
快璃さまの短い髪が揺れる。顔の作りはそっくりだけれど、二人はそれ以外に似ていると思える所はなかった。
「何度やり直しても、私に気持ちをくれないんだ……。」
「記憶が無いときも、私は出会う度に快璃に特別な気持ちを抱きました。それは、まるで運命のように感じるほどに。やり直すほど、はじめから愛しかった。一番初めは、きっとそうでは無かったかもしれない。子どもの小さな初恋だったのかもしれない。けれど、今はもう違う。魂に刻まれてしまった気持ちは、決して消えることはないでしょう。」
「同感だ。玻璃。どうしても、それは消えない。やり直せない。」
玻璃皇子から、表情が消えた。
「快璃さまと透子さまは、記憶が無くてもご結婚なさいました。玻璃皇子はあっさりと他の方と結ばれた。記憶の無いこのたびの人生は、とても穏やかに過ごしておられた。あなたの魂に、透子さまへの思いは刻まれていなかった。それで、良かったのに。私のしたことは正しかったと思っていたのに……。」
真鶴の掠れた声。
「私は、あなたが穏やかに過ごせたらそれで良かったのです。」
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