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透子の章

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あかつきは、すっかり平和ボケしているということだろうか。」
「いや、うーん、どうだろう。圧倒的な人間の数があるからな。こちらは、色んなことに備えているだけだ。敵国に子どもが一人で来るわけだからな。油断はしない。」
「そうか……。そうだな。」

 快璃かいりはすっかり考え込んでしまった。耶麻やまの国は味方にすると、とても心強いが、元あかつき皇子みことしては、かなり思うところがあるだろう。

まりさんは、歩けるようになるまでここで預かれると思う。さて、話の続きをしよう。死んだ人間が、何故ここにいる?」

 じんという少年は、体格も小さく、まだ子どもっぽい顔つきであるのに、非常に冷静だった。

「分からない。私は、私たちは人生を何度か繰り返している。確かに死んだ記憶があるのに、ここにいる。そして、それは初めてじゃない。今の私は、子どもを生んでいない。けれど、記憶の中の私が、その子を、みこを私の子だと訴えている。」
「姫様……。」
「俺たちの考えでは、やり直す前に異界へ移動したまりと赤ん坊はそのままの時を生き、俺たちは戻ったことで年の差が出たのではないかと思っている。」
「その、やり直すというのは、どういうことなんだ。死んだ記憶のあるまま生き直すのか。それは、どの規模で?」
「記憶は、ひどく曖昧だ。この世界すべてが戻っていると考えている。俺は、前回の分はそれほど覚えていないが、その更に前のものは、ほどほど覚えている。学校の入学式に戻るんだ。俺は十歳。」
「私は、事情があって八歳で入学したから八歳に戻ります。私も、前回のものは曖昧です。ただ死ぬ少し前の、男の子を生んだこと、みこと呼んでいたこと、側仕えのまりとみこが、異界への穴に落とされたことを唐突に思い出しました。二十日ほど前です。」
「術士が、この二人を城に呼び出した頃だな。」
「思い出したら、まりの不在にも気付きました。ずっと、私の世話をしてくれていたまりのことが頭から抜けていた。入学式の日に側仕えがいなかった。一緒にあかつきの国まで来たのに、いない。けれど、それがどんな人かも思い出せない。学校で、側仕えを借りて過ごしていたのです。十五年経って、やっと思い出せた。探さなければと思い、動いたら、こんなにすぐに……。」

 私は、胸が詰まってまりを見た。まりも涙を浮かべている。

透璃とうりを育ててくれたのね。こんなに、立派に。ありがとう。ありがとう、まり。」
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