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透子の章

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 元気な少年が駆け込んできて、私が色々と粗相をした所為で、しっかりと挨拶も交わしていなかったことに気付く。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。透子とうこと申します。」
快璃かいりです。」
じんです。こちらは、俺の護衛の平政ひらまさと、この店の潜角せんかく。」

 店の方にも、不作法をしてしまった。

「この度は、お世話になりました。潜角せんかくさん、ご挨拶もしないままに迷惑をお掛けして、申し訳ありません。」
「いえ、とりあえず俺は店番に戻ります。」

 潜角せんかくが降りていき、じんが口を開く。

「何か、ありましたか?」
「私が、いきなり透璃とうりに抱きついてしまって驚かせたので、大声を上げさせてしまったの。本当にごめんなさい。」
透璃とうり?」
「あ、その、みこ……?」
「あー。……その、みこは、その、言葉も通じない所にいきなり連れて来られて、そのあと、かなり怖い目にあっててな。」

 座り込んでまりを支える透璃とうりを見る。こちらの、話をしている者をちらちらと見ている。目が合いそうになると、分かりやすく逸らした。快璃かいりの方を見ると、目があって、そっと眉を下げられた。私のはじめの対応が悪くて警戒されてしまった。ごめんなさい、と呟くと、軽く首を左右に振ってくれた。

「それで、まりさんは、探しているまりさんだったのか?」
「ええ。私の側仕えだったまりです。」
「それは、良かった。まりさんも、良かったですね。」
「……ええ。」

 まりは、複雑な顔で頷いた後、話を続けた。

「あの、それで、年齢の話なのですが、私は今三十三歳です。みこは十五歳です。私たちのいた世界とこちらでは、言葉だけでなく時間の流れも違ったのでしょうか?」 
「……あなたと、みこが消えた後、私は死にました。快璃かいりも、その時にはもう。」
「ちょっと待て。複雑怪奇な話が始まりそうだ。まずは座ろう。」

 じんは、冷静に場を整えてくれた。そこでやっと、立ちっぱなしだったことに気付く。潜角せんかくが、茶を持って入ってきた。

「店は、閉めてきました。」
「ああ、ありがとう。」
「あの、この店は?」

 気になっていたことを聞いておく。

「ああ、耶麻やまの国の持ち物だ。ずっと住み着いている者が経営して、学校休みや放課後に、俺たちみたいな学校に通っている者が顔を出して、ここに住んでいるかのように振る舞うんだ。挨拶して回ったり買い物したり。だから、堂々と街をうろうろしても、何にも怪しまれない。ここらに城の兵が、普段見たことの無い者は来なかったか?と尋ねにきても、見てない、と皆言うだろうな。」
「なんと……。」

 快璃かいりが思わず、といった風に呟いた。
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