【完結】何度でもやり直しましょう。愛しい人と共に送れる人生を。

かずえ

文字の大きさ
上 下
69 / 96
透子の章

18

しおりを挟む
「その部屋は今、商人と話をしておりまして、しばらくかかると聞いておりますので、お待ち頂きたい。」
「私を待たせる?まさかな?」
「あ、いえ、しかし。」

 その時には、すぱんっと襖は開けられていた。
 驚く私たちの前に、髪を高く結った軍装の女の人が立っている。美しいおもては化粧っけもなく、日に焼けて凛々しい。 
 私たちは、即座に平伏した。 

「小賢しい。面を上げい。」

 上げろと言われて上げないのも不敬だっただろうか。どうしたら良いのか、分からない。

「大将軍。勘弁してください。」
「黙れ、深剣みつるぎ。私に内緒で事を成すなど不可能と心得よ。次にしてみよ。お前の国主就任式に招待してやるわ。」
「なんて酷い嫌がらせだ。最悪だ。」

 どかどかと室内に入ると、おろおろしていた兵士に襖を閉めさせて、腰の刀を抜き、どかりと座り込む。

「さて、私にも話を聞かせろ。」
「大将軍。まずは、挨拶を。」
「不要じゃ。」

 深剣みつるぎの溜め息が聞こえる。私たちも諦めて頭を上げた。
 耶麻やまの大将軍は、国主の奥方。深剣みつるぎの叔母さまということは知っている。

「お初にお目にかかる。快璃かいりです。」
「お初にお目にかかります。透子とうこです。」
「側仕え共の挨拶は不要。述べよ。」

 私は、父に語った荒唐無稽な話を、耶麻やまの大将軍、刀戈とうかさまと深剣みつるぎにも語った。
 八歳からの人生を何度か過ごしているような気がすること、その中で一度、子どもを生んでいること、その子と側仕えが消されたこと。子どもの父は、もちろん快璃かいりであること。それらを突然、思い出した上で、何故その子どもが腹に還ってこないのかを調べたいこと。

皇子みこと呼んでいたということは、男だな。その子は、どちらに似ていた?」

 刀戈とうかさまは、驚きもせずに話を聞いた上に、即座に質問をしてきた。私の方が驚きながら、言葉を返す。

「まだ赤子でしたが、快璃かいりに、よく似ておりました。」
「双子であったな。二人はよく似ておるか。」
快璃かいり玻璃皇子はりのみこは、よく知る者でも間違うことがあるほど、瓜二つです。」
「消えてから十五年、であるな。」
「はい。」
「うちの坊主の情報と、そなたらの情報を合わせると、辻褄が合うてしもうた。」
「は?」
「ここ十五年、あかつきの皇家とその血を引く家で、子どもが生まれにくくなっておろう。男は、一人も生まれておらぬ。医者に散々調べさせたが、何の異常もないと結論が出て、術士に頼ったらしい。本物が混じっていたようでな。しゅを突き止め、解呪の方法として十五歳ほどの男を召還し、最後の皇子だと言ったそうな。その子が子を成せば、しゅは解けると。最後の皇子は、玻璃皇子はりのみことよく似ていた、とのことだ。」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...