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透子の章
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「その部屋は今、商人と話をしておりまして、しばらくかかると聞いておりますので、お待ち頂きたい。」
「私を待たせる?まさかな?」
「あ、いえ、しかし。」
その時には、すぱんっと襖は開けられていた。
驚く私たちの前に、髪を高く結った軍装の女の人が立っている。美しい面は化粧っけもなく、日に焼けて凛々しい。
私たちは、即座に平伏した。
「小賢しい。面を上げい。」
上げろと言われて上げないのも不敬だっただろうか。どうしたら良いのか、分からない。
「大将軍。勘弁してください。」
「黙れ、深剣。私に内緒で事を成すなど不可能と心得よ。次にしてみよ。お前の国主就任式に招待してやるわ。」
「なんて酷い嫌がらせだ。最悪だ。」
どかどかと室内に入ると、おろおろしていた兵士に襖を閉めさせて、腰の刀を抜き、どかりと座り込む。
「さて、私にも話を聞かせろ。」
「大将軍。まずは、挨拶を。」
「不要じゃ。」
深剣の溜め息が聞こえる。私たちも諦めて頭を上げた。
耶麻の大将軍は、国主の奥方。深剣の叔母さまということは知っている。
「お初にお目にかかる。快璃です。」
「お初にお目にかかります。透子です。」
「側仕え共の挨拶は不要。述べよ。」
私は、父に語った荒唐無稽な話を、耶麻の大将軍、刀戈さまと深剣にも語った。
八歳からの人生を何度か過ごしているような気がすること、その中で一度、子どもを生んでいること、その子と側仕えが消されたこと。子どもの父は、もちろん快璃であること。それらを突然、思い出した上で、何故その子どもが腹に還ってこないのかを調べたいこと。
「皇子と呼んでいたということは、男だな。その子は、どちらに似ていた?」
刀戈さまは、驚きもせずに話を聞いた上に、即座に質問をしてきた。私の方が驚きながら、言葉を返す。
「まだ赤子でしたが、快璃に、よく似ておりました。」
「双子であったな。二人はよく似ておるか。」
「快璃と玻璃皇子は、よく知る者でも間違うことがあるほど、瓜二つです。」
「消えてから十五年、であるな。」
「はい。」
「うちの坊主の情報と、そなたらの情報を合わせると、辻褄が合うてしもうた。」
「は?」
「ここ十五年、暁の皇家とその血を引く家で、子どもが生まれにくくなっておろう。男は、一人も生まれておらぬ。医者に散々調べさせたが、何の異常もないと結論が出て、術士に頼ったらしい。本物が混じっていたようでな。呪を突き止め、解呪の方法として十五歳ほどの男を召還し、最後の皇子だと言ったそうな。その子が子を成せば、呪は解けると。最後の皇子は、玻璃皇子とよく似ていた、とのことだ。」
「私を待たせる?まさかな?」
「あ、いえ、しかし。」
その時には、すぱんっと襖は開けられていた。
驚く私たちの前に、髪を高く結った軍装の女の人が立っている。美しい面は化粧っけもなく、日に焼けて凛々しい。
私たちは、即座に平伏した。
「小賢しい。面を上げい。」
上げろと言われて上げないのも不敬だっただろうか。どうしたら良いのか、分からない。
「大将軍。勘弁してください。」
「黙れ、深剣。私に内緒で事を成すなど不可能と心得よ。次にしてみよ。お前の国主就任式に招待してやるわ。」
「なんて酷い嫌がらせだ。最悪だ。」
どかどかと室内に入ると、おろおろしていた兵士に襖を閉めさせて、腰の刀を抜き、どかりと座り込む。
「さて、私にも話を聞かせろ。」
「大将軍。まずは、挨拶を。」
「不要じゃ。」
深剣の溜め息が聞こえる。私たちも諦めて頭を上げた。
耶麻の大将軍は、国主の奥方。深剣の叔母さまということは知っている。
「お初にお目にかかる。快璃です。」
「お初にお目にかかります。透子です。」
「側仕え共の挨拶は不要。述べよ。」
私は、父に語った荒唐無稽な話を、耶麻の大将軍、刀戈さまと深剣にも語った。
八歳からの人生を何度か過ごしているような気がすること、その中で一度、子どもを生んでいること、その子と側仕えが消されたこと。子どもの父は、もちろん快璃であること。それらを突然、思い出した上で、何故その子どもが腹に還ってこないのかを調べたいこと。
「皇子と呼んでいたということは、男だな。その子は、どちらに似ていた?」
刀戈さまは、驚きもせずに話を聞いた上に、即座に質問をしてきた。私の方が驚きながら、言葉を返す。
「まだ赤子でしたが、快璃に、よく似ておりました。」
「双子であったな。二人はよく似ておるか。」
「快璃と玻璃皇子は、よく知る者でも間違うことがあるほど、瓜二つです。」
「消えてから十五年、であるな。」
「はい。」
「うちの坊主の情報と、そなたらの情報を合わせると、辻褄が合うてしもうた。」
「は?」
「ここ十五年、暁の皇家とその血を引く家で、子どもが生まれにくくなっておろう。男は、一人も生まれておらぬ。医者に散々調べさせたが、何の異常もないと結論が出て、術士に頼ったらしい。本物が混じっていたようでな。呪を突き止め、解呪の方法として十五歳ほどの男を召還し、最後の皇子だと言ったそうな。その子が子を成せば、呪は解けると。最後の皇子は、玻璃皇子とよく似ていた、とのことだ。」
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