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真鶴の章

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 あかつきの国の高位貴族に、子どもが生まれにくくなっていることの原因が、医師には分からなかった。体に何の異常も無い者の方が多いのだ。
 医師に分からぬならと悩んだ末に、術士と呼ばれる者達が招かれた。正に、藁をもつかむ気持ちである。あかつきの国は武力の国であり、術を使うものが少なく、国民性として、そういったものを信じる者は多くない。属国の中には、術に秀でた国もあるのだが、秘伝の流出を恐れて口をつぐんでいる。属国とはいえ、完全にこうべを垂れている訳ではないのだ。人数で勝るあかつきの国との無駄な争いを避け、民の命を優先して属国となった国も多い。
 招かれた術士の中には、怪しげな祈りを捧げる者や、守り札を売りつけてくる者、皇家はとんでもないものにとり憑かれている、と言葉を尽くして説明する者など様々な者がいた。
 どれもこれも、明確なことを述べているとは思えず、落胆する。
 そんな中、毛色の違う服装の術士が声を上げた。どうやら、属国ではなく同盟国である東夷とうい国の服装のようである。

しゅが、かかってございます。」

 そこまでの術士達が、長々と口上を述べてきたことを思えば、本当に簡単な一言だった。だが、きっぱりと言い切られた言葉に、居並ぶ高位貴族も、御簾に姿を隠されたみかども、何となく息を飲む。

「どんなしゅか分かるか?」 

 みかどのお尋ねに、術士は少し考えた。

「意図してかけたものではないようです。たまたま……。そう、何か他のことをしようとして思わず呟いた言葉がたまたま、しゅとして発動したような、そんな感じがします。」
「皇家に仇なそうとしたのではない、と?」
「たぶん……。」
「解呪は、可能か。」
「このしゅに、悪意やのろいの類いは感じられませんが、こちらではない方の、発動させた呪いには、良くない感情が乗っているかもしれません。その場合、術者に、また術者と関わりの深い者に、何かが起こります。」
「ふむ。」

 みかどは、しばしお考えになる。

「どちらにせよ、このままでは埒が明かぬ。できるのなら、ぜひ解呪してほしい。」

 術士は、淡々と頭を下げた。少し広い場所を確保し、手のひらに傷を付けて流れる血で陣を描く。
 そのような光景を、見たことがある。あれは、前世で玻璃皇子はりのみこがしていたことと、よく似ている。
 静かに控えていた私は、不意にぞっとした。術者がもし、玻璃皇子はりのみこならば?玻璃皇子はりのみこに良くないことが起こってしまうのでは?
 どうしよう、と思う間にも陣は完成していく。
 皇子みこが呟いた言葉。何だろう。そんなものは、あっただろうか。十五年も前の、しかも無かったことになった世界での呟き。
 思い出せずにいる私の前で、鈍く光った陣の中に、人が二人、現れた。小柄な、怪我をしている女性と、成人年齢十五歳頃の男の子。
 その男の子の顔を見たときに、思い出した。玻璃皇子はりのみこが、呟かれた言葉。

皇子みこは、二度と見たくない。』


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