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真鶴の章

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 皇子みこは、その傷が付いた経緯を全く覚えていないと言いながらも、深く追及されることは無かった。

「幸い、痛みは無いようだ。」

 とのお言葉に安堵の息を吐く。痣の鈍痛も無く、刀傷もすっかり治った傷として存在していることを不思議に思いつつ、また時間があれば調べてみることにして、風呂の介助を終えた。
 他の側仕えたちにも、傷のあることを教えて、特に気にしないように振る舞わせることにした。

 そして、私は、玻璃皇子はりのみこが楽しく学校生活を送れるように尽力した。
 まずは、先日の入学式の後の騒ぎをみかどへと書面で報告した。
 玻璃皇子はりのみこは属国の姫とは婚姻できないことを周知徹底することと、高位貴族の姫の中でも、もし推奨される方がいらっしゃるのなら顔合わせくらいはされておいて、婚約者候補として振る舞って頂くのが良いのではないかということ。若君たちも、姫君たちも、節度を持って行動できぬのなら、教室を二つに分けてしまうくらいの方が良いこと、などを書いて提出したのである。
 効果は絶大だった。
 教室での授業中は、私たち側仕えは別室に控えているため様子が分からないのだが、どうやら、教室を二つに分ける案は採用されたようである。
 もともと、いつもの年より人数が多かったため、それはとても良い提案だったと、教師の方々にもお褒め頂いた。子どもたちが落ち着いたため、授業も落ち着いて進めることができ、玻璃皇子はりのみこも楽しげに帰って来られることが増えた。無理やりに近寄って来ようとする者がいなくなると、穏やかに話せる友人も幾人かできたらしい。将来の側近候補もできたということで、とても喜ばしいことだった。
 婚約者候補との顔合わせも幾度か行われて、まだはっきりとこの方だという姫君はいらっしゃらないが、属国の姫とは婚姻できない、ということは玻璃皇子はりのみこの中で確たるものとなったようである。透子とうこ姫の話題は出てくるし、淡く好きな気持ちがあるのだろう、ということは分かるのだが、属国の姫は駄目だと、ご自分の中で恋愛の対象から外されている様子も伺えた。
 ああ。
 私は、何とかできたのかもしれない。
 必死で過ごして、少し安心したその頃に、それは不意に私の中で大きく膨れ上がった。
 まりを探さなければならない。
 彼女さえ見つかれば。
 もう、玻璃皇子はりのみこの罪は無い。まだ生まれていない皇子みこは仕方ないとして、まりを取り戻せたなら。
 それから、私は必死でまりを探した。落ちた穴の行き先が何とか分からないかと禁術を調べ、あけの国にまりという人物がいないか、いなかったかを調べた。まるで、恋い焦がれているかのように、探して、探して。
 
 彼女は、いなかった。
 どこにも。
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