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真鶴の章
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玻璃皇子の部屋へ戻ると、すでに部屋着に着替えて寛がれていた。
「本日は、お疲れさまでした。改めまして、ご入学おめでとうございます。」
頭を下げると、ああ、と溜め息をつく気配がする。
「本当に、疲れたよ。参った。あんなにも人が寄ってくるなんて。」
「ええ。人数も例年より多く、十七人もいらっしゃいます。」
「楽しみにしていたのだが、少し、気落ちしたな……。」
「左様でございますか。」
「ああ。私と仲良くなりたい、と言うより次期帝と知り合いになりたいのだろう?とにかく必死に名を名乗られても、そんなにいっぺんに覚えられやしない。逆に、名乗りに来なかった子の方にばかり目がいってしまったよ。」
椅子に腰かけて寛ぎながら、つらつらと話される様子は十歳の子どものものだった。
私も、五つしか年は変わらない、まだまだ子どもなのだが、何故かすっかり歳上な感覚で皇子を感じてしまう。お世話をするには都合の良いことだ、と思うことにして、話に耳を傾けた。
皇子は、黄沙に淹れてもらった茶を一口飲んで、私に尋ねられる。
「真鶴は、何をしていたの?」
「はい。側仕えや護衛の方々と顔合わせをしておりました。側仕えがいらっしゃらないとお困りの方に、側仕えをお付けしたり、護衛のいらっしゃらない方に、護衛の紹介をしたりしておりました。」
「側仕えがいない?それでは一人で?何と大変なことだろう。だってまだ、私と同じ十歳だろう?」
「ええ。護衛の方が髪紐を結んで差し上げたらしいのですが、引っ張られて痛かったのを我慢していらしたのです。紹介した側仕えがすぐに結び直して、ほっとしておられました。」
「それは、良かった。」
安堵の表情を見せる皇子を、とても好ましく思う。そう、本来、とても優しいお方だった。
その後は、部屋に食事を運んで、のんびりと食べられた。あの騒ぎを思うと、更に上級生までいる食堂で食べることは、とてもできそうにない。今日は、気にすることなくお食事をされたが、そのうち一人での食事を寂しく思われるだろうか、と先のことも気にかかる。
皇子であられることは、覚悟があれども大変なことだな、としみじみ実感した。
「本日は、お疲れさまでした。改めまして、ご入学おめでとうございます。」
頭を下げると、ああ、と溜め息をつく気配がする。
「本当に、疲れたよ。参った。あんなにも人が寄ってくるなんて。」
「ええ。人数も例年より多く、十七人もいらっしゃいます。」
「楽しみにしていたのだが、少し、気落ちしたな……。」
「左様でございますか。」
「ああ。私と仲良くなりたい、と言うより次期帝と知り合いになりたいのだろう?とにかく必死に名を名乗られても、そんなにいっぺんに覚えられやしない。逆に、名乗りに来なかった子の方にばかり目がいってしまったよ。」
椅子に腰かけて寛ぎながら、つらつらと話される様子は十歳の子どものものだった。
私も、五つしか年は変わらない、まだまだ子どもなのだが、何故かすっかり歳上な感覚で皇子を感じてしまう。お世話をするには都合の良いことだ、と思うことにして、話に耳を傾けた。
皇子は、黄沙に淹れてもらった茶を一口飲んで、私に尋ねられる。
「真鶴は、何をしていたの?」
「はい。側仕えや護衛の方々と顔合わせをしておりました。側仕えがいらっしゃらないとお困りの方に、側仕えをお付けしたり、護衛のいらっしゃらない方に、護衛の紹介をしたりしておりました。」
「側仕えがいない?それでは一人で?何と大変なことだろう。だってまだ、私と同じ十歳だろう?」
「ええ。護衛の方が髪紐を結んで差し上げたらしいのですが、引っ張られて痛かったのを我慢していらしたのです。紹介した側仕えがすぐに結び直して、ほっとしておられました。」
「それは、良かった。」
安堵の表情を見せる皇子を、とても好ましく思う。そう、本来、とても優しいお方だった。
その後は、部屋に食事を運んで、のんびりと食べられた。あの騒ぎを思うと、更に上級生までいる食堂で食べることは、とてもできそうにない。今日は、気にすることなくお食事をされたが、そのうち一人での食事を寂しく思われるだろうか、と先のことも気にかかる。
皇子であられることは、覚悟があれども大変なことだな、としみじみ実感した。
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