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真鶴の章

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 違和感の正体を考えたいところだが、そういうわけにもいかない。玻璃皇子はりのみこが去ったことで囲まれようとしている快璃かいり皇子みこの方を見ると、白露しらつゆが向かっていた。

快璃かいり皇子みこ、お疲れさまでした。お部屋へ戻りましょう。」
「ああ。ありがとう、白露しらつゆ。」

 快活な声が響く。透子とうこ姫をそっと庇うようにしながら、抜け出して来られた。
 透子とうこ姫は、啄木鳥きつつきを見つけてぱっと顔を輝かせる。お互いに駆け寄って、ほっとした様子だった。それから、思い出したように快璃かいり皇子みこを振り返り、ペコリと頭を下げる。
 すべての仕草が年相応で、戸惑う様子も自然だった。透子とうこ姫も快璃かいり皇子みこも。
 思考に囚われる前にと、私は自分を叱咤する。

「はじめまして、透子とうこ姫。私は真鶴まなづると申します。玻璃皇子はりのみこの側仕えです。」
「はじめまして。あけの国の透子とうこです。」

 礼儀正しい挨拶を聞いて、思わず頬を緩めた。何と可愛らしい姫だろう。

「側仕えがいらっしゃらないとお伺いし、差し出がましいようですが、一人連れて参りました。葉室はむろと申します。ご用事を遠慮無くお申し付けください。」
「ありがとうございます。葉室はむろさん、よろしくお願いします。」

 屈託無く、挨拶を返してくれる。人見知りなどもしない性質たちであったな、と思う。何故知っているかのように思うのか、という点については後で考えることにした。

葉室はむろとお呼びください。お部屋へ戻りましょうか。おぐしをお直ししましょう。」

 葉室はむろも、姫を好ましく思ったのだろう。自然な笑みを浮かべながら、話しかけた。

「とても助かります。ちょっと引っ張られて痛くて。」
「それは、いけません。よく我慢されましたね。失礼致します。」

 葉室はむろは、すぐに姫の髪紐をほどいた。姫が、ほっとした顔を見せる。手ぐしでまとめ直すと、手早く結んだ。

「あなたのも、お部屋で直しましょう。」

 葉室はむろは、申し訳なさそうに身をすくめている啄木鳥きつつきへも声をかけて、こちらへ頭を下げた。

「それでは真鶴まなづるさま。また、明日。」
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