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真鶴の章

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「名前も、分からない……。」

 私は絶句した。では、私の知っているまりという側仕えは、何なのだ。いや、知っているのがおかしいのか?あれは、夢でしかない。
 何度そう思っても、まざまざと脳裏に浮かぶのは、皇子みこを抱いた小柄な側仕え。
 二人で呆然として黙りこんでいると、白露しらつゆが側仕えのお仕着せを着た者を一人連れて帰ってきた。葉室はむろか。歳は二十代後半と、子どもの側仕えとしては行き過ぎているが、冷静な彼女は、混乱している透子とうこ姫と啄木鳥きつつきにちょうどいいかもしれない。

「ご苦労様。葉室はむろ、突然すまないね。」
「いいえ。」

 優しげな笑みを口元に浮かべて、葉室はむろは頭を下げた。
 私の方が十以上、歳が下であり、側仕えとして学ぶことも多いであろうが、身分は上のため泰然と振る舞わねばならない。私は、第一皇子みこの筆頭側仕えであるのだから。
 呆然としてしまったことを反省して、私は背筋を伸ばした。いつものように、口元に笑みを浮かべる。

白露しらつゆ、ありがとう。良い人を連れてきてくれた。」

 白露しらつゆも笑みを浮かべて頭を下げる。
 そう、私たちは、いつでもこの笑顔に心の内を秘めて、主の心が安らかであることを一番に考えて過ごさねばならない。共に乱されていてはいけないのだ。
 
「それでは、教室にお迎えに参りましょうか。私は透子とうこ姫とお話をしたいと思いますので、かく玻璃皇子はりのみこにその旨、お伝え頂けますか。お世話は、私が戻るまで黄沙きすなにお願いしてください。」
 
 は、と頭を下げるかくに頷き、啄木鳥きつつき葉室はむろを伴って透子とうこ姫の元へと向かった。

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