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真鶴の章

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 何とか意識を持たせて、最後の小国まで自己紹介を聞き終えた。最後の方は、側仕えは連れてきているが護衛はいない、という国が多く、学校付きの護衛に顔合わせをさせ、特に注意を払うようにと申し伝えた。
 そうして漸く、啄木鳥きつつきの元へ話をしに行くことができる。

「失礼致します、あけの国の啄木鳥きつつきさま。側仕えがいらっしゃらないようですが、お困りではありませんか。」
「は、あの、はい。そう、そうですね。困っております。」

 どう答えたら良いものか、というように啄木鳥きつつきは視線をさ迷わせた。

「こちらで、手配致しましょう。良きようにお使いください。白露しらつゆ、直ぐに付ける女性を調べてきてくれるか?」
「は。」

 軽く返事をして立ち去った弟を見送り、啄木鳥きつつきへ視線を戻す。

「失礼ながら、あけの国の方が、側仕えを連れていらっしゃらなかった、ということは過去に聞いたことがなく、不思議に思っております。事情をお聞きしてもよろしいでしょうか。」
「は。その。とりあえず後程、国へ手紙を出して、側仕えを寄越して貰おうと思いますので、それまでの間だけ、お世話になってもよろしいでしょうか。申し訳ない。私は武骨者でして、自分の髪紐すら上手く結べません。姫様の髪も、あのような形になってしまい、情けなく……。」
「いつまででも使って頂いて構わないのですが、その、側仕えの方は共に参られなかったので?」
「……おかしなことを、言う奴だと、思われると思うのですが。」
「ええ。」
「来たのです。共に。」
「側仕えの方と、ですか?」
「ええ。来るときは、もう少し護衛がいましたが、こちらの国に着いた後は、姫と私と、三人で昨日まで居た、と思ったのですが。」
「……。」
「いない、のです。荷物も無く、そこに人など居なかったように。」
「は……あ。」
「分かります。何を言っているか分かりませんよね。私もおかしなことを言っていると、思っております。ですが。」

 啄木鳥きつつきは、疲れたように溜め息を吐いた。

「三人で、頑張ろうと言い合っていた筈なのです……。いないなど、あり得ない。ずっと、姫の側に共にいて、私たちは……。」
「そう、ですか……。確かに、八歳の姫に護衛だけとはおかしなお話です。どちらかしか置けない場合でも、側仕えを優先させることが多い。ましてやあなたは、細々した作業が苦手なご様子。捜索の手配を致しましょうか?」

 啄木鳥きつつきは、力無く首を横に振った。

「名前も分からず、荷物もない人間を、どうやって捜せと言うのでしょう……。」
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