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玻璃の章

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 頭に血が上り、座敷牢へと向かった。鍵を開けるのももどかしい。
 快璃かいりのやつれ果てた顔を渾身の力で殴り飛ばす。庇おうとした側仕えを、躊躇なく切り捨てた。

白露しらつゆ!ああ、白露しらつゆ。」

 素早く深剣みつるぎとその側仕えが、快璃かいりを抱えて私から離した。怒りで私に向かって来るのではなく、少しでも生き残れる道を選ぶその冷静さが、更に私の逆鱗に触れる。
 座敷牢に閉じ込めて、ほんの少しずつの毒入りの食事を与えていた。衰弱したお前達に、何ができる。
 食べても食べなくても死ぬのだ。お前達は、少しずつ弱って病死する予定だった。
 
玻璃皇子はりのみこ!」

 真鶴まなづるが私に飛びついて後ろに引っ張る。カッとしたが、深剣みつるぎが私の刀を弾き飛ばそうと向かってきたのを避けることができた。
 怒りのままに刀を振り下ろす。

深剣みつるぎさま!」

 深剣みつるぎの側仕えが悲痛な叫びを上げた。それでも快璃かいりの側を離れない。お前の忠誠は、深剣みつるぎにあるのではないのか?快璃かいりを守れというのが深剣みつるぎの命令なのか?そこに見える絆のようなものにも、腹が立つ。
 私は、何度繰り返してもそんな相手についぞ出会えていないというのに。
 血塗れの深剣みつるぎがまだ私を掴もうとするのを、私の護衛のかくが背中から串刺しにした。
 私に抱きついたままの真鶴まなづるが小さく震えている。私は、私が切った白露しらつゆを見下ろした。
 弟の死体を見るのは初めてか?私は何度も見ているが。

「貴様、透子とうこに何をした。」

 私の低い声に快璃かいりは答えない。

「一体、いつ……。」

 それ以上、口にすることもできない。ああ、何ということだ。

「子が、できたか……。」

 快璃かいりが、微かに笑んでぽそりと呟いた。
 もう、無理だった。
 私は刀をふるい。
 何度目かの弟の死体を見下ろした。

 
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