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玻璃の章
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快璃のふりをして、儀式を行おう。
双子であることを、今回ほどありがたく思ったことは無かった。緑と赤の髪紐を付けて歩くだけで、誰もが私を快璃として扱うのだから。
透子の部屋の認識阻害の術を緩めて、快璃が訪れているように装う。
「儀式をしよう。」
透子は何も言わず、こちらを睨み付けた。暴れられると面倒だと思ったが、黙って禊をし、儀式のための衣服を着けて帝の前へと出てくれた。
だが、渡された盃を受け取るふりをして落とし、立ち上がると、神官の持つ大麻を奪い投げ捨てた。
ここで、たぶん帝は、父は、入れ替わりに気付いたのだろう。私を睨むと黙って席を立ち部屋を出て行った。
儀式は中止され、私たちは契りを交わせなかった。
その後はまた、部屋に閉じ込めた。徐々に認識阻害の術式を増やしていき、隠す。
助かることに、彼女は規則正しい生活をしてくれた。しっかりと食べて、広い部屋を利用して動き回り、風呂に入り寝る。退屈しないようにと様々な本を差し入れれば、読んでいるようだった。
無茶をされると、それなりの手を打たなくてはいけなくなるので、心底ほっとした。そして、もしかして私に靡いてくれることもあるのかもしれないと淡い期待を抱いた。
父からの呼び出しは、すべて無視した。私は書類上、長期の出張に出ていることになっている。この城にはいないのだ。
快璃と深剣がまた城へ戻ってくる様子がみられるという。今度は、聞き込みをされると透子のことがみつかってしまうかもしれない。旅の途中で捕まえて、座敷牢に閉じ込めた。世話をする者がいた方が良いだろうと、それぞれの側仕えも共に入れておく。
これでのんびりと透子が快璃を諦めるのを待てると思った頃に、気付いてしまった。
小さなその体の、お腹だけが少しずつ膨らんできていることに。
双子であることを、今回ほどありがたく思ったことは無かった。緑と赤の髪紐を付けて歩くだけで、誰もが私を快璃として扱うのだから。
透子の部屋の認識阻害の術を緩めて、快璃が訪れているように装う。
「儀式をしよう。」
透子は何も言わず、こちらを睨み付けた。暴れられると面倒だと思ったが、黙って禊をし、儀式のための衣服を着けて帝の前へと出てくれた。
だが、渡された盃を受け取るふりをして落とし、立ち上がると、神官の持つ大麻を奪い投げ捨てた。
ここで、たぶん帝は、父は、入れ替わりに気付いたのだろう。私を睨むと黙って席を立ち部屋を出て行った。
儀式は中止され、私たちは契りを交わせなかった。
その後はまた、部屋に閉じ込めた。徐々に認識阻害の術式を増やしていき、隠す。
助かることに、彼女は規則正しい生活をしてくれた。しっかりと食べて、広い部屋を利用して動き回り、風呂に入り寝る。退屈しないようにと様々な本を差し入れれば、読んでいるようだった。
無茶をされると、それなりの手を打たなくてはいけなくなるので、心底ほっとした。そして、もしかして私に靡いてくれることもあるのかもしれないと淡い期待を抱いた。
父からの呼び出しは、すべて無視した。私は書類上、長期の出張に出ていることになっている。この城にはいないのだ。
快璃と深剣がまた城へ戻ってくる様子がみられるという。今度は、聞き込みをされると透子のことがみつかってしまうかもしれない。旅の途中で捕まえて、座敷牢に閉じ込めた。世話をする者がいた方が良いだろうと、それぞれの側仕えも共に入れておく。
これでのんびりと透子が快璃を諦めるのを待てると思った頃に、気付いてしまった。
小さなその体の、お腹だけが少しずつ膨らんできていることに。
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