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快璃の章
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翌日は、玻璃と二人で同じ部屋にいた。父上と話を合わせ、昨日も来たことは素知らぬ顔をすることにして。
「玻璃の先日の申し出だが、快璃にも話を聞いてもらうべきだと判断したので、来てもらった。」
「はい。」
と俺だけが返事をし、玻璃は嫌そうに眉をしかめた。
「玻璃が婚約したいと言うのだが、相手は他国の姫君だ。次期帝である玻璃との婚姻は認められぬ。私の話はここまでだ。だが、玻璃には提案があるという。快璃もおらねば話は進まぬ。どうだ、玻璃?」
「私の気持ちは変わりません。」
「私が認めないことも変わらない。」
「私は認められないなら、帝になどならない。」
滅茶苦茶だな、と思いながら話を聞く。
「認めないことは変わらないが、そこまで心を寄せているというなら、相手の気持ちは分かっているのだろうな。」
「この婚約の申し入れで、私の気持ちは伝わるはずだ。」
「相手の気持ちも知らずに押し付けるつもりであるか。こちらは、無理を通せる立場であるからこそ、何事にも考えを巡らせねばならぬ。帝にならない、というのも、お前一人が言い立てたとてどうなるものでもない。」
「快璃がやればいい。私たちはそっくりで、どちらがやっても同じことだ。」
「俺は、十年間、大きくなったら兄上を支えるのだと教えられて育って参りました。自分が表に立つなど無理です。」
「私も、二人をそのように育てたつもりだ。次期帝は玻璃だ。お前が死なない限り覆らないと知れ。」
俺と父上が冷静であればあるほど、兄の苛々とした気持ちが場違いに際立つ。
「では、彼女を我が国の高位貴族の養女になさってください。それなら、婚姻できるでしょう?」
「透子は。」
思わずかっとして大きな声が出てしまったが、冷静に、冷静にと自分に言い聞かせながら言葉を紡ぐ。
「透子は、俺達より二年も早く親元から離されて、寂しい思いをしています。俺は、彼女とは親しい友人であるので、時々弱音を聞くこともあります。けれど、普段はそれを感じさせずに皆に遅れまいと頑張る姿に好感を覚えています。そんな子を、自らの欲のために国や親と縁切りさせようとする兄上を支持することはできません。俺の大切な友人を、悲しませないで頂きたい。」
「玻璃の先日の申し出だが、快璃にも話を聞いてもらうべきだと判断したので、来てもらった。」
「はい。」
と俺だけが返事をし、玻璃は嫌そうに眉をしかめた。
「玻璃が婚約したいと言うのだが、相手は他国の姫君だ。次期帝である玻璃との婚姻は認められぬ。私の話はここまでだ。だが、玻璃には提案があるという。快璃もおらねば話は進まぬ。どうだ、玻璃?」
「私の気持ちは変わりません。」
「私が認めないことも変わらない。」
「私は認められないなら、帝になどならない。」
滅茶苦茶だな、と思いながら話を聞く。
「認めないことは変わらないが、そこまで心を寄せているというなら、相手の気持ちは分かっているのだろうな。」
「この婚約の申し入れで、私の気持ちは伝わるはずだ。」
「相手の気持ちも知らずに押し付けるつもりであるか。こちらは、無理を通せる立場であるからこそ、何事にも考えを巡らせねばならぬ。帝にならない、というのも、お前一人が言い立てたとてどうなるものでもない。」
「快璃がやればいい。私たちはそっくりで、どちらがやっても同じことだ。」
「俺は、十年間、大きくなったら兄上を支えるのだと教えられて育って参りました。自分が表に立つなど無理です。」
「私も、二人をそのように育てたつもりだ。次期帝は玻璃だ。お前が死なない限り覆らないと知れ。」
俺と父上が冷静であればあるほど、兄の苛々とした気持ちが場違いに際立つ。
「では、彼女を我が国の高位貴族の養女になさってください。それなら、婚姻できるでしょう?」
「透子は。」
思わずかっとして大きな声が出てしまったが、冷静に、冷静にと自分に言い聞かせながら言葉を紡ぐ。
「透子は、俺達より二年も早く親元から離されて、寂しい思いをしています。俺は、彼女とは親しい友人であるので、時々弱音を聞くこともあります。けれど、普段はそれを感じさせずに皆に遅れまいと頑張る姿に好感を覚えています。そんな子を、自らの欲のために国や親と縁切りさせようとする兄上を支持することはできません。俺の大切な友人を、悲しませないで頂きたい。」
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