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透子の章

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「正装をするような場には出なければ良いじゃないか。」

 髪を切って、何だかすっきりした様子の快璃かいりが言う。私の涙目には気付いていて、髪などほうっておけば勝手に伸びる、と小声で言いながら頭を撫でていた。
 私の側仕えのまりが、音もなく箒と塵取りを持って近付いてきて、静かに床に散らばる快璃かいりの髪の毛を片付けている。姉上の側仕えの木々ききは、雑巾で床を拭いていた。呆然としている他の者と違っていたって冷静、そして優秀であると思う。木々ききなど初登校であるというのに。

「……あなたは、皇子みことしての自覚が足りない。」

 真鶴まなづるの押し殺した怒りの声。白露しらつゆがじろりと真鶴まなづるを睨む。主人をけなされるのは腹が立つようだ。

「自分のあるじに言うといい。第一皇子みことしての自覚が足りない。は入れ替わりに反対だった。何度言っても聞き入れてはくれなかった。真鶴まなづる、お前も入れ替わりに反対していたのではないのか?何故、玻璃はりの髪に私の髪紐を巻いた?」
「それは……、ご命令でしたので。」
「はっ、はは。ご命令してまで俺になりたいのか、玻璃はり。お笑いだな。真鶴まなづる、俺には自覚がある。第二皇子みことしての自覚が。それを守ったこの行動に、後悔も反省も無い。」

 短くなった髪を揺らして話す快璃かいりが格好いい。正装の時に髪を結い上げる必要があるので、身分が高いほど髪は長い。私は仮にも一国の姫であるので、周囲に短い髪の人をあまり見たことがなかった。
 前回の生で戦場に行き、短い者の方が多くて驚いたものだ。戦場では、なかなか手入れができず不衛生になるから短い方が良いらしい。動きやすいし。
 見惚れていたら、気付いたらしい快璃かいりが私の肩を抱いてきびすを返した。

「ばらばらして鬱陶しい。白露しらつゆ、整えてくれるか。」
「はい。」

 気持ちの落ち着いたらしい白露しらつゆを連れて教室を出た。
 ん?
 何故私は一緒に行くの?
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