【完結】人形と皇子

かずえ

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第十章 されど幸せな日々

110 ふりだしには戻らない  成人

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 かるたの札を一枚取れた蔵磨くらまがとても喜んだので、美鶴みつる鶴来つるきが狙っている札のひと文字目が読まれた時にも、少しだけ待ってみた。灯可とうかも手を出さなかったから、同じ考えだったみたいだ。二人とも、一枚は取れた。少しだけ待っても二人が手を出さなかった札は、俺と灯可とうかが一枚ずつ取った。美鶴みつる鶴来つるきは悔しがっていたけれど、あれ以上は待てなかったよ?
 見可みかは、これとこれとこれは取る、と宣言した三枚の札を全部取った。俺たちの手加減なんていらない速さで、全部持っていった。

見可みか、すごい」

 褒めると、見可みかは、ふふんと笑った。

「俺の勝ちだな」
「勝ちではないだろう?」

 灯可とうかが、むっと言い返す。

「だって、三枚全部取った」
「私と成人なるひとさまは、もっと取っている。多い方が勝ちなんだぞ」
「兄上は、かるた、強過ぎだからな。俺は、俺の決めた札を兄上から守ったら勝ちなんだ。今日なんて、兄上より強い成人なるひとさままでいて全部守ったんだから、俺の勝ちなんだよ」
「は? 何を言っているんだ? かるたは札を取るものだろう? 守るってなんだよ、守るって」

 あれ? 珍しいな、灯可とうかが言い合いをしている。

「もー、喧嘩しないでよ、灯可とうかくん、見可みかくん。でも、見可みかくん、すごいなあ、三枚も取って。私も二枚取りたかったなあ。あ、でも、私も一枚取れたから嬉しい」
「私も一枚取れました。一緒です、姉上」
「くらまは、らをとりました」
「やっぱり私、お姉さんとして、もう一枚取らなくちゃいけなかったわ」

 そうか。美鶴みつるはお姉さんだから、もう一枚取りたいんだね。次、やる時に覚えとく。

「なんで私が負けたみたいになってるんだ。私は、成人なるひとさまにしか負けていないのに。もう、次は、絶対手加減しない。見可みかにも一枚も取らせない」

 ええ? 灯可とうか、それじゃあ、皆で楽しくできないんじゃないかな。っていうか俺、次はもっと取れる気がする。やり方、分かったし。手加減無しだと、灯可とうかにも一枚も取らせないようにできるかもしれないよ? いや、灯可とうかの目の前のは流石に持っていかれちゃうかな。どうだろ?

「ねえ。次はすごろくしようよ、すごろく。あれなら、さいころを振って進む目を出すんだから、誰が強いとかないでしょ? 私、すごろくなら成人なるひとさまと灯可とうかくんに勝てるかも」
「あはは。兄上と成人なるひとさまが、ふりだしに戻ったりして?」
鶴来つるきもする。すごろく」
「皆でしよう。蔵磨くらまくんも一緒にしようね」
「はいっ」

 蔵磨くらまはにこにこで、元気いっぱい返事をした。

「ええ? かるた、もう終わり?」
「うん。終わり」

 美鶴みつるにきっぱりと言われた灯可とうかは、はあ、とため息を吐きながら、かるたの片付けを始めた。

成人なるひとさま。また勝負してくれますか?」
「うん。今度、二人でしよう」

 二人で遊ぶ時にしたらいいんじゃない? 読み手として、緋見呼ひみこさまに来てもらってさ。やろうよ。手加減無しで。

 その後に出てきたすごろく遊びは、さいころを転がして出た目の分、マス目を進む遊びだった。あがりって書いてあるマス目に、早く着いた人の勝ち。あがりって書いてあるマス目にぴったり止まらないとあがれないのが難しい。
 途中のマス目にも色々な指示が書いてあって、止まったら実行しなくちゃならないんだって。三回回ってわんと言う、とか、右隣の人とにらめっこして勝つこと、とか書いてあってとても面白かった。一進む、三戻る、ふりだしに戻る、なんて書いてあるマス目に止まったら、大変だ。すぐに順位が入れ替わる。誰かがさいころを振る度に、皆できゃあきゃあと大騒ぎした。
 俺は、ずんずん進んで、あっさり上がった。

成人なるひとさま。もしかして、さいころで出したい目を出せたり、します……?」

 灯可とうかに言われて、そっと目を逸らす。
 ごめん、灯可とうか。さいころ、何回か振ったら、力加減で、ある程度操れるようになっちゃった……。
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