1,310 / 1,321
第十章 されど幸せな日々
101 立ち話では語り切らん 成人
しおりを挟む
皆が、何だかしゅんとなった所へ、ぐうう、とじいじのお腹が大きな音を立てた。ああ、源さんに手加減できなかったのは、お腹が空いてたから、って事もあったのか。
俺のお腹はあんまり鳴ったりしないし、俺の周りの人も、ご飯の時間にはご飯をしっかり食べているから、こんなに大きなお腹の音を聞くことは滅多にない。一緒に遊んでいて、力丸のお腹が鳴るのを聞いたことがあるくらい。
すっごくお腹が空くと、こんなに大きな音が鳴るんだね。びっくり。
「あ。そやった。ご飯」
壱臣が、その音を聞いて慌てている。
「はい。それでは!」
乙羽が、ぱんっと手を叩いた。
「それぞれ持ち場に戻りましょ。おじさま、三郎さん。いくら自分の家だからってなんの連絡もなく帰れば、すぐにご飯は出てこないものですのよ、普通は。今回は、たまたまお正月だからあるようですけれど」
「うむ。そのようじゃ、姫。面目ない」
「ご迷惑をおかけしました」
じいじと三郎が、乙羽に頭を下げる。
「はい、よろしい。でもね、自分のおうちなんだから、いつでも帰ってきていいのよ?」
「ははっ。もちろん、そうしよう。なあ、三郎?」
「はい。……はい、ありがたく。あ、その、」
三郎は、源さんにもう一度頭を下げた。
「私に、こちらで任された仕事がある間は、御目に留まる場にあることをお許しください。なるべく、目につかんよう過ごす事を誓います」
はあ、と源さんは項垂れる。
「言わんでええこともある。言わん方がええこともある、て孫に教えといてください、利胤さま」
三郎から目をそらしたまま、源さんはじいじに言った。
「わはは」
じいじは、がしりと源さんの肩に手を回す。逃げられなかったね、源さん。
「それを決めるのは、当人のみ。違うか」
じいじは、笑って言った。
「けど。聞かなんだら俺は。気付いとらん振りくらいはできました。腹が立っとっても、許せんくても、目をそらせた」
「それで良かった、と言えんのが、うちの孫の良いところでな。ええ子じゃろう?」
「それを! それを俺に聞きますか」
「まあまあ、落ち着け。まだまだうちの孫の良いところはたくさんある。立ち話では語り切らん。どうじゃ、ちと付き合わんか?」
じいじは、源さんを捕まえていない方の手で、くいっとお酒を飲む仕草をする。
なんか格好良いね、それ。
「……長いこと飲んでないんで、飲めるかどうか分かりません」
「え?」
食堂へ行こうとしていた壱臣が、源さんの言葉に驚いて振り返った。
「源さん。お酒飲めるん?」
「昔は飲めた。今は、どのくらいいけるか分からん」
「ええー。飲んでるとこ見たことない。飲めんのかと思ってた。学校で、父ちゃんはお酒飲まん、って言うたら、そういう人は下戸って言うんやでって教えてもろて、源さんは下戸なんやって思ってた」
「誰が下戸や。ほんで、誰が父ちゃん、いや、まあ、それはええか。そんな金、うちには無かったやろ。どうしても酔いたくて飲んでみた料理酒は、ひどく不味かったしな」
源さんは、顔を上げてどこか遠くを見た。
「ほな、二本作る。熱っついの二本作ってくる」
「兄上、手伝います」
ばたばたと壱臣と三郎が厨房に行って、じいじは源さんを捕まえたまま食堂へ向かう。俺たちも食堂に付いていった。
じいじがお酒を飲むのなら、朱音殿下とはこの後俺の部屋で遊ぶか、って考えていたら、じいじががらりと戸を開けた先に、はいはいで近寄ってきていた朱音殿下が見えた。
「おや! こんにちは! 可愛いのう!」
一瞬固まった朱音殿下は、じいじの後ろの俺の顔を見て、みるみる眉を下げた。
「ん? どうした? ほれ、抱っこしてやろう。じいじのとこへ来い」
「う、ううっ。うううー」
「ありゃ。こりゃいかん」
「うわぁあん!」
うん。声が大きいんだよ、じいじ。
俺のお腹はあんまり鳴ったりしないし、俺の周りの人も、ご飯の時間にはご飯をしっかり食べているから、こんなに大きなお腹の音を聞くことは滅多にない。一緒に遊んでいて、力丸のお腹が鳴るのを聞いたことがあるくらい。
すっごくお腹が空くと、こんなに大きな音が鳴るんだね。びっくり。
「あ。そやった。ご飯」
壱臣が、その音を聞いて慌てている。
「はい。それでは!」
乙羽が、ぱんっと手を叩いた。
「それぞれ持ち場に戻りましょ。おじさま、三郎さん。いくら自分の家だからってなんの連絡もなく帰れば、すぐにご飯は出てこないものですのよ、普通は。今回は、たまたまお正月だからあるようですけれど」
「うむ。そのようじゃ、姫。面目ない」
「ご迷惑をおかけしました」
じいじと三郎が、乙羽に頭を下げる。
「はい、よろしい。でもね、自分のおうちなんだから、いつでも帰ってきていいのよ?」
「ははっ。もちろん、そうしよう。なあ、三郎?」
「はい。……はい、ありがたく。あ、その、」
三郎は、源さんにもう一度頭を下げた。
「私に、こちらで任された仕事がある間は、御目に留まる場にあることをお許しください。なるべく、目につかんよう過ごす事を誓います」
はあ、と源さんは項垂れる。
「言わんでええこともある。言わん方がええこともある、て孫に教えといてください、利胤さま」
三郎から目をそらしたまま、源さんはじいじに言った。
「わはは」
じいじは、がしりと源さんの肩に手を回す。逃げられなかったね、源さん。
「それを決めるのは、当人のみ。違うか」
じいじは、笑って言った。
「けど。聞かなんだら俺は。気付いとらん振りくらいはできました。腹が立っとっても、許せんくても、目をそらせた」
「それで良かった、と言えんのが、うちの孫の良いところでな。ええ子じゃろう?」
「それを! それを俺に聞きますか」
「まあまあ、落ち着け。まだまだうちの孫の良いところはたくさんある。立ち話では語り切らん。どうじゃ、ちと付き合わんか?」
じいじは、源さんを捕まえていない方の手で、くいっとお酒を飲む仕草をする。
なんか格好良いね、それ。
「……長いこと飲んでないんで、飲めるかどうか分かりません」
「え?」
食堂へ行こうとしていた壱臣が、源さんの言葉に驚いて振り返った。
「源さん。お酒飲めるん?」
「昔は飲めた。今は、どのくらいいけるか分からん」
「ええー。飲んでるとこ見たことない。飲めんのかと思ってた。学校で、父ちゃんはお酒飲まん、って言うたら、そういう人は下戸って言うんやでって教えてもろて、源さんは下戸なんやって思ってた」
「誰が下戸や。ほんで、誰が父ちゃん、いや、まあ、それはええか。そんな金、うちには無かったやろ。どうしても酔いたくて飲んでみた料理酒は、ひどく不味かったしな」
源さんは、顔を上げてどこか遠くを見た。
「ほな、二本作る。熱っついの二本作ってくる」
「兄上、手伝います」
ばたばたと壱臣と三郎が厨房に行って、じいじは源さんを捕まえたまま食堂へ向かう。俺たちも食堂に付いていった。
じいじがお酒を飲むのなら、朱音殿下とはこの後俺の部屋で遊ぶか、って考えていたら、じいじががらりと戸を開けた先に、はいはいで近寄ってきていた朱音殿下が見えた。
「おや! こんにちは! 可愛いのう!」
一瞬固まった朱音殿下は、じいじの後ろの俺の顔を見て、みるみる眉を下げた。
「ん? どうした? ほれ、抱っこしてやろう。じいじのとこへ来い」
「う、ううっ。うううー」
「ありゃ。こりゃいかん」
「うわぁあん!」
うん。声が大きいんだよ、じいじ。
1,330
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる