【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
1,307 / 1,321
第十章 されど幸せな日々

98 おかえり?  成人

しおりを挟む
 あっという間に、年始のお休み期間に入った。これが明けたら年始の集まりだ。緋色ひいろは、集まりに出席したらまたすぐに、鶴丸つるまるたちの所に戻るつもりらしい。だから、他に人は帰ってきていなくて、帰ってきた六人とお留守番チームだけでのんびりと過ごしていた。皆、向こうで休みを満喫したらいい、って緋色ひいろが言った。ふふっ。優しい。
 年始のお休み期間のはずだけれど、こっちは、やっている事は普段とあまり変わらない。生松いくまつは病院に仕事に行くし、同じく病院にいるさかえも、誘ったらうちにお昼ご飯を食べに来て、また病院に戻る。お休みじゃないの? って聞いたら、まあ交代で休みますよ、って二人とも言う。手伝いの人は交代で休んでいるらしく、病院はいつもより働いている人が少なかった。お城も、年始のお休みだからと人が少ないので患者もあまり来ないけれど、それでも、全く来ないわけじゃない。だから、閉められないんだって。怪我や病気は、いつ起こるか分からないから大変だよね。
 お休み期間になるといつも思うけれど、皆が皆一斉に休む訳にはいかないから、そういう仕事の人たちは大変だ。
 料理人たちも護衛もいつも通り。ご飯は必ず食べなくちゃいけないし、守る人がいない間に、身分の高い人たちに何かあったら大変だもんね。

「帰ったぞー!」

 今日も、お昼ご飯を食べに来た朱実あけみ殿下と赤璃あかりさまが帰った後の食堂で朱音あかね殿下と遊んでいたら、じいじの大きな声がした。

「ええー?」

 同じように朱音あかね殿下と遊んでいた乙羽おとわと顔を見合わせる。朱音あかね殿下の乳母の玉乃井たまのいと、玉乃井たまのいの子どもの栄喜さかきが、じいじの大きな声にびくっと後ろを振り返った。じいじの声が聞こえたのはそっちの方向じゃないんだけど。たぶん、反射的に振り返ったんだろう。そっくりな動きで、親子だなーって思った。親子や兄弟は似てるものだからね。うん。二人は顔はそんなに似ていない。こういう時は、あれだ。栄喜さかきはお父さん似なんだね、って言われるんだよきっと。
 お昼ご飯の後、朱音あかね殿下が俺の土産の木の玩具で楽しく遊んでいたら、置いていくわ、って赤璃あかりさまが言ったんだ。朱実あけみ殿下と赤璃あかりさまは、年始のお休み中にもちょこちょことお仕事をしているらしい。緋色ひいろもだけど。緋色ひいろは、たくさん文句を言っていたけど。
 赤璃あかりさまってば、なると乙羽おとわがいれば大丈夫でしょって軽く言って帰っちゃった。まあ大丈夫だけど。
 でも、泣いた時に俺も乙羽おとわ朱音あかね殿下を抱き上げられないよ? いいの? と、思っていたら、玉乃井たまのい栄喜さかきがさっきお城から来てくれた。年始のお休み中なのに? と思ったけど乳母も休めない仕事の一つか。まあ、そうか。そのうち交代で休むんだよね、きっと。
 朱音あかね殿下も、ん? ん? と声の主を探していた。じいじの声に、あんまりびくってしていなかったのすごいな?

「帰るって聞いてた?」
「聞いてない」

 子どもたちは玉乃井たまのいに任せて乙羽おとわと出入り口へ向かうと、じいじがのしのしと歩いてきた。後ろに三郎さぶろうも見えた。

「おかえり?」
「おかえりなさい?」

 乙羽おとわと二人、語尾が上がってしまったよ。

「おう、成人なるひと乙羽おとわさま、ただいま帰りました! いやあ、腹が減ったな。壱臣いちおみ。おーい、壱臣いちおみ! 飯が余っとらんか!」
成人なるひと殿下、乙羽おとわさま、ただいま戻りました。ああ、もう、お祖父様。こんな急に帰ってきとんのに、ある訳ないでしょう?」
「あれば儲けもの。何でも聞いてみるが得策じゃぞ、三郎さぶろう。覚えておけ」
「はあ」

 三郎が、返事だかため息だか分からない声を漏らした。
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

処理中です...