1,299 / 1,321
第十章 されど幸せな日々
90 源さんはすたすた歩いた 成人
しおりを挟む
着替えて、待っててくれた力丸と、仕事着に着替えてきた壱臣と三人で厨房に向かった。俺は、くまの服。白くて、帽子に付いてる目が赤いやつ。やっぱりくまの服、好きだな。ふわふわで温かくて、手触りも良くて動きやすい。うっかり寝てしまっても大丈夫だし、ばっちり。うん。
緋色も、動きやすい服に着替えて転がっていた。何故か小さな俺の部屋に入り込んできて、俺のお気に入りの大きなクッションに転がって、コーヒーって言った。え? コーヒー? もらってくるの? って聞いたら、おう、だって。珍しい。俺がコーヒーやお酒の匂いが苦手だから、俺が一緒にいる時には緋色は、コーヒーやお酒はほとんど飲まないのに。
もうすぐご飯だから、もらえるかどうか分からないよ? まあ、厨房に行くから、頼んでみるけどさ。
何かの書類を手に転がる緋色の口に、ちゅってして部屋を出た。自分のお部屋にいる時は、いつでもちゅーてしていい。ふふ。帰ってきたねえ。
厨房に近づくと、源さんの姿を見た壱臣が駆け出す。
「源さーん。ただいまー」
「おー、おかえりって、さっきも挨拶したやろ、臣。何回言うんや」
「へへー。帰ってきたな、て思って。源さん、寂しかった?」
「は?」
「うちがおらんくて寂しかった?」
「いや? 別に?」
「ええー? うちはちょっと寂しかったのに」
「なんや。ちょっとか」
「んー、まあ、半助おったし?」
「かー。のろけか。のろけ言いにきたんなら部屋に戻れ。手伝いはいらん」
「ええー? 手伝いに来たのに、もうできとるん? はやっ」
「こんなもんやろ」
「そう?」
俺たちが帰ってきたから人数が増えているのに、一人で全部作っちゃってた。すごいな、源さん。流石、壱臣の師匠だ。
「できとるんやったらもう食べよか。力丸くんがお腹空いたんやって」
「ん? 力丸くん? ああ、力丸くんな、力丸くん」
源さんは、壱臣の後ろの俺たちを見て笑う。
「あん人はな、いつでもお腹空いてはるから、放っといたらええ」
「ええー? お腹空いてるって分かってるのにもらえない俺、かわいそ過ぎじゃない?」
「うるさいですよ、力丸さま。あんたの言うちょっと一口は、つまみ食いの量で済まんのです。もうすぐやから、待っとってください」
力丸と源さん、仲良しになっている。
「源さん、ただいま。あのね、緋色がコーヒー欲しいって」
「おかえりなさい、成人殿下。もうすぐご飯ですよ?」
「俺もそれ思った」
源さんは、はあってため息をつきながら、すたすた歩いてコーヒーの準備を始めた。
ん? あれ?
「はあ? 何で緋色殿下のコーヒーは出てきて、俺は待て、なんだよー。腹減った、腹減った、腹減った」
「あー、もう。主の要望にお応えするんは、臣下として当然のことでしょうが。仕方のない方やな。臣、料理並べていってくれ」
「やった」
「はーい」
力丸が万歳して、ふふ、と笑った壱臣が、手を丁寧に洗い始める。
コーヒーの匂いと、色んな食べ物の匂い。厨房を歩き回る料理人。
「あ」
そうか。
「どうした」
「ん? ふふ。あのね」
俺は、なんとなくこそこそと力丸の耳に口を寄せる。
源さんが、すたすた歩いてる。
小さな声で言ったら、力丸は、あって目を見開いた。
「はは。ほんとだ」
出来上がった料理を眺めた壱臣の声。
「源さん、今日品数多いなあ」
「ん? そうか?」
すたすた歩けるようになった源さんは、俺たちの好きなものをたくさん作って待っててくれた。
緋色も、動きやすい服に着替えて転がっていた。何故か小さな俺の部屋に入り込んできて、俺のお気に入りの大きなクッションに転がって、コーヒーって言った。え? コーヒー? もらってくるの? って聞いたら、おう、だって。珍しい。俺がコーヒーやお酒の匂いが苦手だから、俺が一緒にいる時には緋色は、コーヒーやお酒はほとんど飲まないのに。
もうすぐご飯だから、もらえるかどうか分からないよ? まあ、厨房に行くから、頼んでみるけどさ。
何かの書類を手に転がる緋色の口に、ちゅってして部屋を出た。自分のお部屋にいる時は、いつでもちゅーてしていい。ふふ。帰ってきたねえ。
厨房に近づくと、源さんの姿を見た壱臣が駆け出す。
「源さーん。ただいまー」
「おー、おかえりって、さっきも挨拶したやろ、臣。何回言うんや」
「へへー。帰ってきたな、て思って。源さん、寂しかった?」
「は?」
「うちがおらんくて寂しかった?」
「いや? 別に?」
「ええー? うちはちょっと寂しかったのに」
「なんや。ちょっとか」
「んー、まあ、半助おったし?」
「かー。のろけか。のろけ言いにきたんなら部屋に戻れ。手伝いはいらん」
「ええー? 手伝いに来たのに、もうできとるん? はやっ」
「こんなもんやろ」
「そう?」
俺たちが帰ってきたから人数が増えているのに、一人で全部作っちゃってた。すごいな、源さん。流石、壱臣の師匠だ。
「できとるんやったらもう食べよか。力丸くんがお腹空いたんやって」
「ん? 力丸くん? ああ、力丸くんな、力丸くん」
源さんは、壱臣の後ろの俺たちを見て笑う。
「あん人はな、いつでもお腹空いてはるから、放っといたらええ」
「ええー? お腹空いてるって分かってるのにもらえない俺、かわいそ過ぎじゃない?」
「うるさいですよ、力丸さま。あんたの言うちょっと一口は、つまみ食いの量で済まんのです。もうすぐやから、待っとってください」
力丸と源さん、仲良しになっている。
「源さん、ただいま。あのね、緋色がコーヒー欲しいって」
「おかえりなさい、成人殿下。もうすぐご飯ですよ?」
「俺もそれ思った」
源さんは、はあってため息をつきながら、すたすた歩いてコーヒーの準備を始めた。
ん? あれ?
「はあ? 何で緋色殿下のコーヒーは出てきて、俺は待て、なんだよー。腹減った、腹減った、腹減った」
「あー、もう。主の要望にお応えするんは、臣下として当然のことでしょうが。仕方のない方やな。臣、料理並べていってくれ」
「やった」
「はーい」
力丸が万歳して、ふふ、と笑った壱臣が、手を丁寧に洗い始める。
コーヒーの匂いと、色んな食べ物の匂い。厨房を歩き回る料理人。
「あ」
そうか。
「どうした」
「ん? ふふ。あのね」
俺は、なんとなくこそこそと力丸の耳に口を寄せる。
源さんが、すたすた歩いてる。
小さな声で言ったら、力丸は、あって目を見開いた。
「はは。ほんとだ」
出来上がった料理を眺めた壱臣の声。
「源さん、今日品数多いなあ」
「ん? そうか?」
すたすた歩けるようになった源さんは、俺たちの好きなものをたくさん作って待っててくれた。
1,392
お気に入りに追加
5,088
あなたにおすすめの小説
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています
倉本縞
BL
エルガー王国の王子アンスフェルムは、これまで二回、獣人族の王子ラーディンに殺されかかっていた。そのたびに時をさかのぼって生き延びたが、三回目を最後に、その魔術も使えなくなってしまう。
今度こそ、ラーディンに殺されない平穏な人生を歩みたい。
そう思ったアンスフェルムは、いっそラーディンの伴侶になろうと、ラーディンの婚約者候補に名乗りを上げる。
ラーディンは野蛮で冷酷な獣人の王子と噂されていたが、婚約者候補となったアンスフェルムを大事にし、不器用な優しさを示してくれる。その姿に、アンスフェルムも徐々に警戒心を解いてゆく。
エルガー王国がラーディンたち獣人族を裏切る未来を知っているアンスフェルムは、なんとかそれを防ごうと努力するが……。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる