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第十章 されど幸せな日々
89 待ってる人がいるところ 成人
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「ただいまー」
「おかえりなさい。遅いですよ、殿下、成人。なんで俺の方が先に着いてるんですか」
謁見の間では近衛の制服でぴしっと立っていた力丸が、おうちで過ごすときの楽な服に着替えて出迎えてくれた。そういえば、母さまと挨拶している俺たちのところに駆けつけた朱実殿下についていた近衛は、力丸じゃなかったな。
「母さまにご挨拶してきたから。聞いてたでしょ」
「聞いてたけどさ。俺のが後かと思ってたから」
力丸は、歩きながらぺらぺらしゃべる。
「壱臣さんも半助さんも、兄上と義姉上もおかえり。壱臣さん帰ってきてくれて嬉しいよ。源さんさあ、つまみ食いさせてくれなくてさ。ちょっと小腹が空いたときに厨房に行っても、もうすぐ時間だから待ってろって追い出されちゃうんだよ。あー、腹減った」
「あはは。うちが帰ってきたからって、食べれるわけやないかもよー。今、料理長代理は源さんやから、源さんに聞いてみんとあげれんかもしれん」
「ええっ。ああ、広末たち、早く帰ってこないかなあ。試作品の味見は俺がいなきゃ駄目だろー」
「力丸くん、何でも美味しいって言うやん。試食係としてはあんまりかなあ」
「え? だって全部美味しいし」
「あは。あはは」
試食係としてはあんまり、だって。力丸、新作の試食は俺に任せろ、っていつも言っているのに。そういえば、何を食べても、これ美味しいって言っているなあ。それじゃ、駄目かあ。そうかあ。
「何笑ってんだよ、成人。成人だって、何食べても美味しいって言うだろー」
「成人くんは、ものすごーく好みのものは、うまって言ってから黙って、一生懸命もぐもぐするから分かりやすいんやで」
「確かに」
「え? そうなの?」
自分では、分からないものだなあ。
「ってことで、厨房に行こう、厨房。殿下、成人下ろして。というか、なんで抱っこ? 元気だよな?」
車から降りたらまた、緋色に抱っこされたんだよ。おうちの目の前なのにさ。ま、おうちだからいっか。くっつくのに理由はいらないよね。俺も、くっついてるのは好きだし。ちゅーは人前でしないけどね。
「元気」
「よし、行こう。痛てっ」
力丸のおでこが緋色に弾かれた。
「本当にうるさいな、お前は。着替えるまで待ってろ」
「むう、確かに。正装のままじゃ動きにくいな。早く着替えて来いよ、成人。壱臣さんも。な?」
力丸はおでこをさすりながら、でもにこにこしている。
「すいません、殿下。うるさくて」
「ふふ。寂しかったのよね」
「別に? 仕事忙しかったし? 寂しがる暇なんてなかったし?」
常陸丸と乙羽の言葉に、力丸はふいっと横を向いた。
ふふ、俺、分かる。これ、寂しかったやつだ。
「俺も。俺も力丸が側にいなくて寂しかったよ」
そうだろ、って頷いた力丸は、すっごくいい顔で笑った。
皆で行ったらあっちもおうちみたいだったけど、こっちがおうちなのも変わらないんだな。
「おかえりなさい。遅いですよ、殿下、成人。なんで俺の方が先に着いてるんですか」
謁見の間では近衛の制服でぴしっと立っていた力丸が、おうちで過ごすときの楽な服に着替えて出迎えてくれた。そういえば、母さまと挨拶している俺たちのところに駆けつけた朱実殿下についていた近衛は、力丸じゃなかったな。
「母さまにご挨拶してきたから。聞いてたでしょ」
「聞いてたけどさ。俺のが後かと思ってたから」
力丸は、歩きながらぺらぺらしゃべる。
「壱臣さんも半助さんも、兄上と義姉上もおかえり。壱臣さん帰ってきてくれて嬉しいよ。源さんさあ、つまみ食いさせてくれなくてさ。ちょっと小腹が空いたときに厨房に行っても、もうすぐ時間だから待ってろって追い出されちゃうんだよ。あー、腹減った」
「あはは。うちが帰ってきたからって、食べれるわけやないかもよー。今、料理長代理は源さんやから、源さんに聞いてみんとあげれんかもしれん」
「ええっ。ああ、広末たち、早く帰ってこないかなあ。試作品の味見は俺がいなきゃ駄目だろー」
「力丸くん、何でも美味しいって言うやん。試食係としてはあんまりかなあ」
「え? だって全部美味しいし」
「あは。あはは」
試食係としてはあんまり、だって。力丸、新作の試食は俺に任せろ、っていつも言っているのに。そういえば、何を食べても、これ美味しいって言っているなあ。それじゃ、駄目かあ。そうかあ。
「何笑ってんだよ、成人。成人だって、何食べても美味しいって言うだろー」
「成人くんは、ものすごーく好みのものは、うまって言ってから黙って、一生懸命もぐもぐするから分かりやすいんやで」
「確かに」
「え? そうなの?」
自分では、分からないものだなあ。
「ってことで、厨房に行こう、厨房。殿下、成人下ろして。というか、なんで抱っこ? 元気だよな?」
車から降りたらまた、緋色に抱っこされたんだよ。おうちの目の前なのにさ。ま、おうちだからいっか。くっつくのに理由はいらないよね。俺も、くっついてるのは好きだし。ちゅーは人前でしないけどね。
「元気」
「よし、行こう。痛てっ」
力丸のおでこが緋色に弾かれた。
「本当にうるさいな、お前は。着替えるまで待ってろ」
「むう、確かに。正装のままじゃ動きにくいな。早く着替えて来いよ、成人。壱臣さんも。な?」
力丸はおでこをさすりながら、でもにこにこしている。
「すいません、殿下。うるさくて」
「ふふ。寂しかったのよね」
「別に? 仕事忙しかったし? 寂しがる暇なんてなかったし?」
常陸丸と乙羽の言葉に、力丸はふいっと横を向いた。
ふふ、俺、分かる。これ、寂しかったやつだ。
「俺も。俺も力丸が側にいなくて寂しかったよ」
そうだろ、って頷いた力丸は、すっごくいい顔で笑った。
皆で行ったらあっちもおうちみたいだったけど、こっちがおうちなのも変わらないんだな。
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