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第十章 されど幸せな日々
81 皆でご挨拶 成人
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静かな廊下で、俺たちはただ頭を下げていた。母さまが、もういいよって言ってくれないから頭を上げられない。どうしたのかな? 礼の受け方を忘れちゃった?
「顔を上げても?」
緋色の声がするまで、ここには生きて動いている人がいないんじゃないかってくらい静かだった。乙羽や壱臣も気配を消せることを知った。息をひそめて、なるべく認識されないようにやり過ごそうとする二人は、意識せずにその状態になれるみたいだ。
なるほど。
「え? ええ、もちろん」
母さまがそう言ってくれて、俺たちはやっと下げていた頭を上げることができた。
「や、やあね、緋色さん。こんな場所でそんな畏まった挨拶をするなんて。驚いてしまったわ」
こんな場所?
「ここは、私たちの家でしょう? いちいちそんな挨拶をしていたら疲れてしまうじゃない」
ああ、そうだった。ここは、母さまの家。おうち。緋色のおうちでもあった。
「もう、俺の家ではありませんので」
「別の場所に家を構えたからって、ここがあなたの家でなくなったりはしないわ」
「……ありがとうございます」
緋色は、それだけ言ってまた頭を下げた。
「……だから、そういうのはいらない、と……」
「あ、はい」
また、二人は黙ってしまった。
もういいのかな? 挨拶は終わりかな? 俺や、一緒に来た人たちの挨拶はしなくていいのかな。
「緋色。俺も挨拶する?」
「ん? ああ。しておけ」
俺のおうちではないから、ちゃんとした挨拶にするか。
「雫石母さまにご挨拶申し上げます。成人、ただいま戻りました」
「……」
ぺこりと頭を下げて、お返事はないけれど上げる。顔を上げていいって言ってもらっているから、これでいいはず。緋色が、ぽんぽんと俺の頭を撫でたから、あっていたみたいだ。
「泉門院乙羽が皇妃殿下にご挨拶申し上げます。突然の訪問となり、誠に申し訳ございません。緋色殿下と共に陛下への帰国報告を終えた際に、皇妃殿下へもご挨拶をしていけばどうかとのご提案があったため、そのまままかりこしました」
お、おお? ついさっきまで、何で私も行かなくちゃならないの、と言っていたのに、流れるようなご挨拶。乙羽は、緋見呼さまに礼儀の色々は教わったらしい。格好いい。
だから、緋色は、お出かけするときに乙羽に言うんだな。留守は任せた、って。俺たち家族の代表ができる人。可愛いのに格好いい。
「九鬼壱臣が皇妃殿下にご挨拶申し上げます。乙羽さまと同じく、ついて参った次第です。ええっと、突然の訪問をお詫び申し上げます」
壱臣も上手。皆、ちゃんとできるなあ。礼儀は大事だからね。護衛の二人は口を開かずに、ただもう一度、乙羽と壱臣と一緒に包拳礼をした。
母さまは、やっぱりお返事をしなかった。
ま、いっか。
「緋色、ご挨拶終わった」
「そうか」
緋色は、俺を見て、皆を見て、ほんの少し笑った。
「では、母上。失礼します」
「顔を上げても?」
緋色の声がするまで、ここには生きて動いている人がいないんじゃないかってくらい静かだった。乙羽や壱臣も気配を消せることを知った。息をひそめて、なるべく認識されないようにやり過ごそうとする二人は、意識せずにその状態になれるみたいだ。
なるほど。
「え? ええ、もちろん」
母さまがそう言ってくれて、俺たちはやっと下げていた頭を上げることができた。
「や、やあね、緋色さん。こんな場所でそんな畏まった挨拶をするなんて。驚いてしまったわ」
こんな場所?
「ここは、私たちの家でしょう? いちいちそんな挨拶をしていたら疲れてしまうじゃない」
ああ、そうだった。ここは、母さまの家。おうち。緋色のおうちでもあった。
「もう、俺の家ではありませんので」
「別の場所に家を構えたからって、ここがあなたの家でなくなったりはしないわ」
「……ありがとうございます」
緋色は、それだけ言ってまた頭を下げた。
「……だから、そういうのはいらない、と……」
「あ、はい」
また、二人は黙ってしまった。
もういいのかな? 挨拶は終わりかな? 俺や、一緒に来た人たちの挨拶はしなくていいのかな。
「緋色。俺も挨拶する?」
「ん? ああ。しておけ」
俺のおうちではないから、ちゃんとした挨拶にするか。
「雫石母さまにご挨拶申し上げます。成人、ただいま戻りました」
「……」
ぺこりと頭を下げて、お返事はないけれど上げる。顔を上げていいって言ってもらっているから、これでいいはず。緋色が、ぽんぽんと俺の頭を撫でたから、あっていたみたいだ。
「泉門院乙羽が皇妃殿下にご挨拶申し上げます。突然の訪問となり、誠に申し訳ございません。緋色殿下と共に陛下への帰国報告を終えた際に、皇妃殿下へもご挨拶をしていけばどうかとのご提案があったため、そのまままかりこしました」
お、おお? ついさっきまで、何で私も行かなくちゃならないの、と言っていたのに、流れるようなご挨拶。乙羽は、緋見呼さまに礼儀の色々は教わったらしい。格好いい。
だから、緋色は、お出かけするときに乙羽に言うんだな。留守は任せた、って。俺たち家族の代表ができる人。可愛いのに格好いい。
「九鬼壱臣が皇妃殿下にご挨拶申し上げます。乙羽さまと同じく、ついて参った次第です。ええっと、突然の訪問をお詫び申し上げます」
壱臣も上手。皆、ちゃんとできるなあ。礼儀は大事だからね。護衛の二人は口を開かずに、ただもう一度、乙羽と壱臣と一緒に包拳礼をした。
母さまは、やっぱりお返事をしなかった。
ま、いっか。
「緋色、ご挨拶終わった」
「そうか」
緋色は、俺を見て、皆を見て、ほんの少し笑った。
「では、母上。失礼します」
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