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第十章 されど幸せな日々
78 戻りましたのご挨拶 成人
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「ただいま戻りました」
緋色と俺は立ったまま頭を下げて、俺たちと一緒に戻ってきた常陸丸、乙羽、壱臣、半助は膝をついて包拳礼をした。
「ご苦労だった。面を上げよ」
父さまが、いつも通りに言う。
顔を上げると、いつも通りにほんの少し笑ったような顔の父さまと朱実殿下と赤璃さまがいた。朱実殿下はいつも通りより、もう少し笑っているかも? いや、いつもあんなのかな。ま、いいや。皇族の表情の時に、何も分かるわけがない。赤璃さまは、にこにこ笑っていたから、俺もにこってしておいた。何だか久しぶりだ。朱音殿下、元気かな? あっちの子どもたちは元気いっぱいだったよ。
「帰国までに、ずいぶんと時間がかかったな」
「はい」
「……。西国は落ち着いたか」
「いえ」
「……。そうか」
謁見の間は、しーんと静かになる。
父さまや俺たち以外にも人はたくさん並んでいるし、何か書いている人もいるんだけど、誰もが息もしていないんじゃないかってくらい静かになった。
終わり? 挨拶終わりかな?
は、と小さく息を吐いたのは朱実殿下。
「緋色。もう少し詳しく説明しなさい」
「報告書は提出してあります」
うん。報告書が提出してあるなら、それでいいか。今は、戻りましたの挨拶をしにきたから、戻りましたって言ったら終わりかな?
「色々と騒動もあったようだが、大体は予想の範囲だったのだろう? 恙なく事は進んでいるかな」
「ああ、まあ。はい」
「お前の直属の者たちを手伝いに送ったのだけれど、役に立ったかな」
「……あー、その。とても、助かりました」
朱実殿下はにっこり笑った。
「それは良かった」
「あー、まあ。はい」
「今回の帰国はこれだけ? 他はまだ西中国に?」
「はい。残して参りました。各務一族は大変有能ですが、西賀国との二国を治めるには人手が足りず、まだしばらくあちらで手伝いたいと考えております。つきましては、新年の集まりの後、再度西中国へと赴く許可を頂きたく」
おお。緋色が丁寧にしゃべって頭を下げている。俺も、慌てて一緒に頭を下げた。何か、お願い事? ちょっとよく分からなかった。
「手伝いが必要なことは理解している。あの大きな国が揺らぐことは、皇国にとって看過できない。揺らぐ前に対処できたことは僥倖であった。もちろん、差し伸べた手を急に引き上げるようなことはせぬ。しかし、お前がわざわざもう一度行くことはないのではないかな?」
「手伝いに入っているのはうちの者です」
「私の手の者も貸しているんだけれどね?」
「では、兄……皇太子殿下の手の者は引き上げられるとよろしい」
「それでは、連絡を取るのも難しいだろう?」
「西中国には電信装置がありました。連絡はそれで」
「離宮の電信装置と繋いだんじゃないだろうね?」
「あ」
朱実殿下は、すっかり皇族の顔じゃなくなって緋色と話している。緋色も、たくさんお返事してる。
にこにこじゃなくなっていた赤璃さまは、またにこにこになった。
「朱実、緋色」
父さまが変わらない表情で言った。
「今は、帰国の挨拶だ」
「は」
「は」
「無事で何より。今後の話は、また後ほど時間を取ろう。以上だ」
「は」
あ、終わりだ。今、分かりやすかった。
「失礼いたします」
朱実殿下とは、またいつでも話せるしね。
頭を下げて出て行こうとした俺たちに、父さまの声がする。
「緋色、妃も心配していた。成人と共に顔を見せてゆけ」
妃?
緋色と俺は立ったまま頭を下げて、俺たちと一緒に戻ってきた常陸丸、乙羽、壱臣、半助は膝をついて包拳礼をした。
「ご苦労だった。面を上げよ」
父さまが、いつも通りに言う。
顔を上げると、いつも通りにほんの少し笑ったような顔の父さまと朱実殿下と赤璃さまがいた。朱実殿下はいつも通りより、もう少し笑っているかも? いや、いつもあんなのかな。ま、いいや。皇族の表情の時に、何も分かるわけがない。赤璃さまは、にこにこ笑っていたから、俺もにこってしておいた。何だか久しぶりだ。朱音殿下、元気かな? あっちの子どもたちは元気いっぱいだったよ。
「帰国までに、ずいぶんと時間がかかったな」
「はい」
「……。西国は落ち着いたか」
「いえ」
「……。そうか」
謁見の間は、しーんと静かになる。
父さまや俺たち以外にも人はたくさん並んでいるし、何か書いている人もいるんだけど、誰もが息もしていないんじゃないかってくらい静かになった。
終わり? 挨拶終わりかな?
は、と小さく息を吐いたのは朱実殿下。
「緋色。もう少し詳しく説明しなさい」
「報告書は提出してあります」
うん。報告書が提出してあるなら、それでいいか。今は、戻りましたの挨拶をしにきたから、戻りましたって言ったら終わりかな?
「色々と騒動もあったようだが、大体は予想の範囲だったのだろう? 恙なく事は進んでいるかな」
「ああ、まあ。はい」
「お前の直属の者たちを手伝いに送ったのだけれど、役に立ったかな」
「……あー、その。とても、助かりました」
朱実殿下はにっこり笑った。
「それは良かった」
「あー、まあ。はい」
「今回の帰国はこれだけ? 他はまだ西中国に?」
「はい。残して参りました。各務一族は大変有能ですが、西賀国との二国を治めるには人手が足りず、まだしばらくあちらで手伝いたいと考えております。つきましては、新年の集まりの後、再度西中国へと赴く許可を頂きたく」
おお。緋色が丁寧にしゃべって頭を下げている。俺も、慌てて一緒に頭を下げた。何か、お願い事? ちょっとよく分からなかった。
「手伝いが必要なことは理解している。あの大きな国が揺らぐことは、皇国にとって看過できない。揺らぐ前に対処できたことは僥倖であった。もちろん、差し伸べた手を急に引き上げるようなことはせぬ。しかし、お前がわざわざもう一度行くことはないのではないかな?」
「手伝いに入っているのはうちの者です」
「私の手の者も貸しているんだけれどね?」
「では、兄……皇太子殿下の手の者は引き上げられるとよろしい」
「それでは、連絡を取るのも難しいだろう?」
「西中国には電信装置がありました。連絡はそれで」
「離宮の電信装置と繋いだんじゃないだろうね?」
「あ」
朱実殿下は、すっかり皇族の顔じゃなくなって緋色と話している。緋色も、たくさんお返事してる。
にこにこじゃなくなっていた赤璃さまは、またにこにこになった。
「朱実、緋色」
父さまが変わらない表情で言った。
「今は、帰国の挨拶だ」
「は」
「は」
「無事で何より。今後の話は、また後ほど時間を取ろう。以上だ」
「は」
あ、終わりだ。今、分かりやすかった。
「失礼いたします」
朱実殿下とは、またいつでも話せるしね。
頭を下げて出て行こうとした俺たちに、父さまの声がする。
「緋色、妃も心配していた。成人と共に顔を見せてゆけ」
妃?
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