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第十章 されど幸せな日々
74 聞けることは聞いたらいい 成人
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「皆さん、こんにちは。壱臣言います。緋色殿下んとこの料理人です。半助がお世話になっとります」
「あ、いえ、こちらこそ……」
壱臣と晦たちは、ぺこぺこと頭を下げあった。
「壱臣? 今、壱臣言うた……?」
「壱臣て、確か九鬼の……」
「え? 行方知れずの?」
「行方知れずは三男やろ?」
「そうやったな……。でも、長男も、跡取り辞退して別の仕事に就いたって発表されとったけど、どこにおるんか誰も知らんかったやん」
「確かに」
「このお人ってことですか?」
「緋色殿下んとこの料理人が?」
「料理人? 緋色殿下んとこの料理人言うたら、アレ? アレの仲間ってこと?」
「あの強いのな。アレ、普通に料理しとったな、昼食ん時。ほんま、どうなってんのやろな」
頭を下げ合った後で、壱臣と半助から少し離れた晦たちは、またぶつぶつ言っている。
アレ? 強い料理人?
ああ、村次か。
料理人だよって俺、言ったじゃん。
「西国筆頭家の長男が料理人か」
「探っても分からんはずやわ……。予想もつかん」
「隠してもおらんのにな」
「な」
壱臣は晦たちに挨拶を終えると、ぶら下げていた手提げ型のお盆を休憩用の椅子の上に置いた。お盆部分と同じような硬い素材で腕にぶら下げられる部分が付いているお盆。
あれ? いいな、あのお盆。あれなら俺も片手でも運べるぞ。
「壱臣。そのお盆」
「あ、成人くん、気付いた? ふふ。これなあ、この前街に行った時に見つけたんよ。なんか、塗りが施してある言うてえらい値が張ったんやけどな。思い切って買うてしもた」
「いい」
「そうやろ? いいやろ?」
「うん。欲しい」
「ふふ。またお店、教えるな。でもな、これ、ほんまに高いんやで。うち、こんな贅沢なもんを自分に買うたの初めてや」
「うー。そうかあ」
でも、欲しいな。このお盆があれば、カートが無くてもお茶を運べる。お仕事ができる。
頑張ってお仕事して、お金貯めて俺も買おう!
「仕事で使うものは買ってやる」
緋色が、俺の顔をじっと見ながら言った。
「え? そう?」
「ああ。壱臣も。仕事の道具は必要経費だ。それ、買ってやるから値段を言え」
「ええー? ええんですか? でも、殿下。これ、ほんまにちょっと贅沢で」
「いい品は長く使えると聞く。いい買い物をしたな、壱臣」
「えへへ……。街歩きさせてもろて、ありがとうございます、殿下。好きな人と一緒に歩けて、買いたいもん買えて楽しいです」
少し頬を赤くして笑う壱臣は、大人だけど可愛い。そうか。大人でも可愛い人は可愛いのか。
「やっぱり違うんちゃいます? 隊長」
「西国筆頭家の長男が、ちょっと塗りの施してある程度のお盆を買うんが初めての贅沢て事はないんじゃ……」
「せやけど、お前。あのお人、なんや上品やし」
「疑問が聞ける相手であるなら聞きなさい。それが一番、手っ取り早い」
「ぎえっ。は、は、はいぃっ」
じいやが、音もなく四人に近付いて言った。
だよね? 分からない人同士で話してても、ずっと分からないよね? 分かる人に聞くのが一番だよ。
「あの、壱臣さま」
晦が、丁寧な手付きでお茶を湯のみに注ぐ壱臣に近付いてきた。
「ん? ちょお待っとってな。はい、どうぞ」
「ありがとうございます。あの、名字、を、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「え? ああ。うち、名乗るん忘れとった? 九鬼です。九鬼壱臣。よろしくお願いします」
「やっぱり……」
俺にも、聞きたいことあったら何でも聞いてね。分かることなら何でも教えてあげるから。
「あ、いえ、こちらこそ……」
壱臣と晦たちは、ぺこぺこと頭を下げあった。
「壱臣? 今、壱臣言うた……?」
「壱臣て、確か九鬼の……」
「え? 行方知れずの?」
「行方知れずは三男やろ?」
「そうやったな……。でも、長男も、跡取り辞退して別の仕事に就いたって発表されとったけど、どこにおるんか誰も知らんかったやん」
「確かに」
「このお人ってことですか?」
「緋色殿下んとこの料理人が?」
「料理人? 緋色殿下んとこの料理人言うたら、アレ? アレの仲間ってこと?」
「あの強いのな。アレ、普通に料理しとったな、昼食ん時。ほんま、どうなってんのやろな」
頭を下げ合った後で、壱臣と半助から少し離れた晦たちは、またぶつぶつ言っている。
アレ? 強い料理人?
ああ、村次か。
料理人だよって俺、言ったじゃん。
「西国筆頭家の長男が料理人か」
「探っても分からんはずやわ……。予想もつかん」
「隠してもおらんのにな」
「な」
壱臣は晦たちに挨拶を終えると、ぶら下げていた手提げ型のお盆を休憩用の椅子の上に置いた。お盆部分と同じような硬い素材で腕にぶら下げられる部分が付いているお盆。
あれ? いいな、あのお盆。あれなら俺も片手でも運べるぞ。
「壱臣。そのお盆」
「あ、成人くん、気付いた? ふふ。これなあ、この前街に行った時に見つけたんよ。なんか、塗りが施してある言うてえらい値が張ったんやけどな。思い切って買うてしもた」
「いい」
「そうやろ? いいやろ?」
「うん。欲しい」
「ふふ。またお店、教えるな。でもな、これ、ほんまに高いんやで。うち、こんな贅沢なもんを自分に買うたの初めてや」
「うー。そうかあ」
でも、欲しいな。このお盆があれば、カートが無くてもお茶を運べる。お仕事ができる。
頑張ってお仕事して、お金貯めて俺も買おう!
「仕事で使うものは買ってやる」
緋色が、俺の顔をじっと見ながら言った。
「え? そう?」
「ああ。壱臣も。仕事の道具は必要経費だ。それ、買ってやるから値段を言え」
「ええー? ええんですか? でも、殿下。これ、ほんまにちょっと贅沢で」
「いい品は長く使えると聞く。いい買い物をしたな、壱臣」
「えへへ……。街歩きさせてもろて、ありがとうございます、殿下。好きな人と一緒に歩けて、買いたいもん買えて楽しいです」
少し頬を赤くして笑う壱臣は、大人だけど可愛い。そうか。大人でも可愛い人は可愛いのか。
「やっぱり違うんちゃいます? 隊長」
「西国筆頭家の長男が、ちょっと塗りの施してある程度のお盆を買うんが初めての贅沢て事はないんじゃ……」
「せやけど、お前。あのお人、なんや上品やし」
「疑問が聞ける相手であるなら聞きなさい。それが一番、手っ取り早い」
「ぎえっ。は、は、はいぃっ」
じいやが、音もなく四人に近付いて言った。
だよね? 分からない人同士で話してても、ずっと分からないよね? 分かる人に聞くのが一番だよ。
「あの、壱臣さま」
晦が、丁寧な手付きでお茶を湯のみに注ぐ壱臣に近付いてきた。
「ん? ちょお待っとってな。はい、どうぞ」
「ありがとうございます。あの、名字、を、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「え? ああ。うち、名乗るん忘れとった? 九鬼です。九鬼壱臣。よろしくお願いします」
「やっぱり……」
俺にも、聞きたいことあったら何でも聞いてね。分かることなら何でも教えてあげるから。
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