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第十章 されど幸せな日々
73 鍛錬所は寒くない 成人
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「成人。すぐ戻ってくる約束だろう?」
半助と晦たちの手合わせを夢中で見ていたら、緋色が迎えに来てしまった。
え? そんなに時間経ったかなあ。まだそうでもないと思うよ? たぶん。
足に重みを感じて見れば、亀吉が俺の足につかまってぐらぐらと揺れ始めている。んー、と目を擦る。
大変、大変。
すごく眠たい時の仕草だ。
お布団の敷いてあるお昼寝部屋に戻らなくちゃ。
「亀吉さま、香月のところへいらしてください」
「や」
いやなのかー。
「抱っこしてみた方が見やすいかもしれませんよ?」
「ん?」
「晦さま達の動き。香月は亀吉さまより大きいですから、とーってもよく見えとります」
そうだね。亀吉はまだまだ小さいから、亀吉の立っている位置からだと見えにくいことがたくさんあるだろう。亀吉の位置からしか見えないことも、たくさんあると思うけど。小さいってのは悪いことばかりじゃない。
「お前。すごく冷えてしまってるじゃないか」
ありゃ。俺が先に、緋色に抱き上げられてしまった。俺の足に寄りかかっていた亀吉がバランスを崩すのなんて、緋色は全然お構いなしだ。もー。もちろん亀吉のことは、常陸丸が素早く抱き上げているんだけどさ。香月がまた、手を出しかけた姿勢で止まっていた。確かこの前は、力丸が先に抱き上げたんだったな。
ちょっと鍛錬しとく?
「抱っこするぞ、って言って」
「抱っこするぞ」
もうしちゃってるじゃないか。
「もー」
「約束を破ったお前が悪い。鍛錬所は寒いから、すぐに城内に戻ってこいと言ったろう?」
「言った」
俺も、うん分かった、って返事した。
でも、まだそんなに時間経っていないと思うんだよな。ああでも、緋色にくっつくとあったかい。冷えてたか。亀吉がつかまってた足の辺りは、ぽかぽかだったんだけどね。子どもってなんだか温かい。
「ごめん……」
小望の三回目を見たら中に、と俺が口にする前に、のんびりとした声がかかる。
「皆さん、少し休憩しませんか? 飲みもんお持ちしましたよ」
「臣」
手合わせ三回目最後の小望を、今までの最速で吹っ飛ばした半助が飛んでくる。
ありゃ、残念だった。
晦たちも慣れてきたし、半助も疲れてきていたし、三回目は皆、少し打ち合い出来ていたのに。
「化けもんか」
汗を拭った晦の呟きが聞こえた。
訓練にならなくてごめんね、小望。半助は壱臣が大事すぎて、壱臣が近くにいると、危ないものをとにかく全力で排除しようとしちゃうんだよ。
「こんな危ないとこ来たらあかん」
「大丈夫やで、半助。緋色殿下と常陸丸さんの後ろからついてきたんやもん。なんも危ないことあらへん。危ないことしとんは半助やろ」
「ただの訓練や」
「でも、打ち合ったりするし、何があるか分からんし。心配しとんやで、いっつも」
「うん。心配かけんように、もっと強なるから」
「いや、もう充分なんやけど。いや、まあ、うん。気ぃつけてな?」
「当たり前や。臣に心配かけるようなことはせえへん」
「ふふ。はーい。信用しとるよ」
今日も二人は仲良し。デートの予定がつぶれたの、本当にごめんね。
「いや、あれ、誰ー?」
「さっき、俺らのこと吹っ飛ばしてた人ちゃいますか?」
「別人やん」
「デートの予定がつぶれたって言うてはりましたよ、確か……」
「それ、俺らのせいやなくないですか?」
「ほんまに……」
晦たちが、ぶつぶつ言っている。
うん、まあ、それはそうかも。
半助と晦たちの手合わせを夢中で見ていたら、緋色が迎えに来てしまった。
え? そんなに時間経ったかなあ。まだそうでもないと思うよ? たぶん。
足に重みを感じて見れば、亀吉が俺の足につかまってぐらぐらと揺れ始めている。んー、と目を擦る。
大変、大変。
すごく眠たい時の仕草だ。
お布団の敷いてあるお昼寝部屋に戻らなくちゃ。
「亀吉さま、香月のところへいらしてください」
「や」
いやなのかー。
「抱っこしてみた方が見やすいかもしれませんよ?」
「ん?」
「晦さま達の動き。香月は亀吉さまより大きいですから、とーってもよく見えとります」
そうだね。亀吉はまだまだ小さいから、亀吉の立っている位置からだと見えにくいことがたくさんあるだろう。亀吉の位置からしか見えないことも、たくさんあると思うけど。小さいってのは悪いことばかりじゃない。
「お前。すごく冷えてしまってるじゃないか」
ありゃ。俺が先に、緋色に抱き上げられてしまった。俺の足に寄りかかっていた亀吉がバランスを崩すのなんて、緋色は全然お構いなしだ。もー。もちろん亀吉のことは、常陸丸が素早く抱き上げているんだけどさ。香月がまた、手を出しかけた姿勢で止まっていた。確かこの前は、力丸が先に抱き上げたんだったな。
ちょっと鍛錬しとく?
「抱っこするぞ、って言って」
「抱っこするぞ」
もうしちゃってるじゃないか。
「もー」
「約束を破ったお前が悪い。鍛錬所は寒いから、すぐに城内に戻ってこいと言ったろう?」
「言った」
俺も、うん分かった、って返事した。
でも、まだそんなに時間経っていないと思うんだよな。ああでも、緋色にくっつくとあったかい。冷えてたか。亀吉がつかまってた足の辺りは、ぽかぽかだったんだけどね。子どもってなんだか温かい。
「ごめん……」
小望の三回目を見たら中に、と俺が口にする前に、のんびりとした声がかかる。
「皆さん、少し休憩しませんか? 飲みもんお持ちしましたよ」
「臣」
手合わせ三回目最後の小望を、今までの最速で吹っ飛ばした半助が飛んでくる。
ありゃ、残念だった。
晦たちも慣れてきたし、半助も疲れてきていたし、三回目は皆、少し打ち合い出来ていたのに。
「化けもんか」
汗を拭った晦の呟きが聞こえた。
訓練にならなくてごめんね、小望。半助は壱臣が大事すぎて、壱臣が近くにいると、危ないものをとにかく全力で排除しようとしちゃうんだよ。
「こんな危ないとこ来たらあかん」
「大丈夫やで、半助。緋色殿下と常陸丸さんの後ろからついてきたんやもん。なんも危ないことあらへん。危ないことしとんは半助やろ」
「ただの訓練や」
「でも、打ち合ったりするし、何があるか分からんし。心配しとんやで、いっつも」
「うん。心配かけんように、もっと強なるから」
「いや、もう充分なんやけど。いや、まあ、うん。気ぃつけてな?」
「当たり前や。臣に心配かけるようなことはせえへん」
「ふふ。はーい。信用しとるよ」
今日も二人は仲良し。デートの予定がつぶれたの、本当にごめんね。
「いや、あれ、誰ー?」
「さっき、俺らのこと吹っ飛ばしてた人ちゃいますか?」
「別人やん」
「デートの予定がつぶれたって言うてはりましたよ、確か……」
「それ、俺らのせいやなくないですか?」
「ほんまに……」
晦たちが、ぶつぶつ言っている。
うん、まあ、それはそうかも。
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