【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
1,278 / 1,321
第十章 されど幸せな日々

69 いいような気がしないでもない?  成人

しおりを挟む
 本物のお茶が出てくる前にすぐ謁見に呼ばれたつごもりたちは、殿たち歓迎してくれて良かったな、と笑顔で執務室に戻ってきた。竹光たけみつ鶴丸つるまるに、四人がこちらに来たことを喜んでもらったんだな。うん、分かる。信頼できる人が城の中に増えるのは心強い。皆強いしね。もう少し経験を積めば、その辺の一ノ瀬はかわせる気がする。
 にこにこで戻ってきた四人は、でも、執務室で待ち構えていたおーちゃんにまた正座させられた。そのまま、お説教開始。お説教って何か知らなかったけど、見ていたら、これがお説教か、ってすぐ分かった。叱られるやつね。口でたくさん説明されながら叱られるやつ。
 おーちゃんのお説教は、お昼ご飯まで続いた。おーちゃん、よく喋るなあ。俺が本物のお茶を差し入れると、恐縮です、と言いながらごくごく飲んだ。つごもりたちも、びっくりした顔をしながら受け取ってごくごく飲んだ。末良すえよしのくれるお茶や食べ物は、飲めないし食べられないからね。あんなに喋っていたら喉が渇くから、お茶を飲んでおかないと。
 お昼ご飯ですよー、って、廊下から声がかかると、皆ほっとした顔をした。乙羽おとわの声だ。
 お説教を受けていた人だけじゃなく、部屋にいた人皆、ほっ。聞こえるもんね、お説教の声。同じ部屋にいたらさ。仕事したり、末良すえよし亀吉かめきちの遊びに付き合っていても、ずっと何だか気になる。
 おーちゃん、お説教は、ほどほどがいいと思うよ。ほどほどって大事。
 そんなに喋ることがあるのか、すごいって思ってちょっと耳を澄ませて聞いてみた。……同じ話を色んな言い方で繰り返してた。それ、さっき聞いたからもういいや、って途中で聞くのをやめた。きっと、つごもりたちもそう思っていると思う。そんな顔してる。でも、おーちゃんは気づかずに一生懸命喋っていた。
 お説教って、短いとお説教にならないのかな? ここが駄目だったから直しなさい、って簡単に伝えたんじゃ駄目なのかな? そっちの方がちゃんと言いたい事が伝わりそうだけどな。ま、いっか。とりあえず今度から、お説教する時は別の部屋でしてもらおう。
 俺、お説教、あんまり好きじゃない。

「ありがと、乙羽おとわ
「はーい」
「ありがとうございます! 頂きます!」

 つごもりが大きな声で返事をして足を崩した。

「あ、足が痺れた」
「うちも」
「俺もです……」
「……うぅ」

 ええ? 今、襲撃されたら大変だ。お説教の時は正座って決まりがあるならそれも良くないよ、おーちゃん。すぐに動けないような状態になる姿勢は駄目だ。つごもりたちは、動くのが仕事なんだから。

「こら。まだええ言うとらん」
「ご飯は食べなきゃ駄目だよ?」

 まだ何か言おうとするおーちゃんに声をかける。おーちゃんはまだ正座のままで、背筋を伸ばしていた。お説教する側も正座なんだ? 大変だね。おーちゃんは、足は痺れてないの?

「あ、は。そうでした。すみません、成人なるひと殿下。食事と休息をしっかり取ることが、ここで仕事をする者たちの決まり事でしたね」

 そうそう。ご飯を食べなきゃ力は出ない。ちゃんと寝ないと頭は働かない。

「お説教はもう終わり」
「おお、天使がおる」
「あ、隊長にも見えますか? うちにも見えとります」
「優しい。ここ、ええとこや」
「ご飯いっぱい食べます。いっぱい寝ますー」
「お昼からは、仕事あるし」

 お説教してたら、お仕事できない。

「え?」
「じいやがね、引き継ぎするって」
「あ、引き継ぎ。了解です」
「鍛錬所に集合だって」

 つごもり小望こもちが、がくっと崩れ落ちた。

「鍛錬所……」
「引き継ぎが鍛錬所……?」
「引き継ぎってなんやっけ……?」

 横の二人は顔を見合わせる。

「あの、じいやさん、って?」
「隊長を捕まえた成人なるひと殿下の護衛さんです」

 小望こもちの言葉に二人は、ひええ、と仰け反った。

「座ってお話よりいいよね?」

 鍛えながらお話。二ついっぺんにできていい。正座してお話を聞いて足が痺れたって、何にもいい事ないからね。

「いい、ような気がしないでもないような……?」

 ん? それは、どっち?
 
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...