1,274 / 1,321
第十章 されど幸せな日々
65 みいつけた 成人
しおりを挟む
「あれ?」
「ほう」
「……っ」
俺が違和感を感じた時にはもう、その人はじいやに捕まっていた。
惜しい。着ていたのが西中国の使用人用の着物じゃなかったら、捕まっていなかったかもしれない。西中国の使用人用の着物はちょっと動きにくいんですって、西賀国の使用人たちは言っていたから。
そのくらい、その人の反応は速かった。その反応の速さで、やっぱりこの人に感じた違和感は正しかったんだって分かる。
特別におかしいところがあったわけじゃない。ちゃんと、散歩している俺と亀吉が通り過ぎる時には立ち止まって頭を下げていたし、気配がないわけでもなくあるわけでもなかったんだけれども。
なんだろう。何故か、ふと……。
「お主、先ほども会ったな」
ああ、それ? それか。
二度目? 三度目? それを俺が認識していないのがまたおかしい。だって、なんとなく分かるよね。使用人たちは、俺が横を通るときには頭を下げていて顔が見えないけれど、それでもなんとなく。あ、この人さっきも会った人だな、とか分かる。ついさっきなら特に。それが、この人は分からなかった。うん。おかしい。
どこに行くか分からない俺たちに何度も会うのもおかしい。
部屋での積み木遊びやおままごと遊びに飽きて散歩に出た亀吉は、どこに行くともなくうろうろする。階段の上り下りが好きな亀吉は多分、階段のある場所を目指している。たぶん。でも、簡単にはたどり着かない。何か気になるものがあれば止まっちゃうし、違う方向に行っちゃう。広い西中国のお城の、階段のある場所への道をちゃんと覚えているのかも怪しい。
そんな感じで適当にふらふらしている俺たち。
仕事中の人の邪魔は、なるべくしないように気を付けている俺たち。
その俺たちに、何回も出会う?
「は? いえ。何のことやら……。あ、いや。すみませんすみません」
その人は、じいやに捕まった瞬間にまた、ふ、と力を抜いていた。じいやに腕を掴まれたまま、ぺこぺこと頭を下げている様子には何もおかしなところはなくて、おかしい。
「何か、その粗相を……」
まだ何か言おうとするその人に、はあ、と今日も一緒にお城散歩をしていた香月がため息を吐いた。
「晦さま。もう無理かと……」
「あ? 香月、お前。お前が話しかけたらもうあかんやん」
「いえ、あの、捕まった時点でもうあかんでしょ……」
「いいや、まだいけた。なんやこう、もうちょっと話をして油断を誘ってやな」
香月は、もう一度ため息を吐く。
いけるわけないよねえ。じいやに捕まって、いや、認識されて、逃げられるわけがない。
ててっ、と亀吉がその人に近寄って、顔を覗き込んだ。
「ちゅももい? おお、ちゅももい」
西賀国の人。亀吉と香月が知っている人。
じいやから、逃げられそうだった人。
じいやがにんまり笑った。
「みいつけた」
「ほう」
「……っ」
俺が違和感を感じた時にはもう、その人はじいやに捕まっていた。
惜しい。着ていたのが西中国の使用人用の着物じゃなかったら、捕まっていなかったかもしれない。西中国の使用人用の着物はちょっと動きにくいんですって、西賀国の使用人たちは言っていたから。
そのくらい、その人の反応は速かった。その反応の速さで、やっぱりこの人に感じた違和感は正しかったんだって分かる。
特別におかしいところがあったわけじゃない。ちゃんと、散歩している俺と亀吉が通り過ぎる時には立ち止まって頭を下げていたし、気配がないわけでもなくあるわけでもなかったんだけれども。
なんだろう。何故か、ふと……。
「お主、先ほども会ったな」
ああ、それ? それか。
二度目? 三度目? それを俺が認識していないのがまたおかしい。だって、なんとなく分かるよね。使用人たちは、俺が横を通るときには頭を下げていて顔が見えないけれど、それでもなんとなく。あ、この人さっきも会った人だな、とか分かる。ついさっきなら特に。それが、この人は分からなかった。うん。おかしい。
どこに行くか分からない俺たちに何度も会うのもおかしい。
部屋での積み木遊びやおままごと遊びに飽きて散歩に出た亀吉は、どこに行くともなくうろうろする。階段の上り下りが好きな亀吉は多分、階段のある場所を目指している。たぶん。でも、簡単にはたどり着かない。何か気になるものがあれば止まっちゃうし、違う方向に行っちゃう。広い西中国のお城の、階段のある場所への道をちゃんと覚えているのかも怪しい。
そんな感じで適当にふらふらしている俺たち。
仕事中の人の邪魔は、なるべくしないように気を付けている俺たち。
その俺たちに、何回も出会う?
「は? いえ。何のことやら……。あ、いや。すみませんすみません」
その人は、じいやに捕まった瞬間にまた、ふ、と力を抜いていた。じいやに腕を掴まれたまま、ぺこぺこと頭を下げている様子には何もおかしなところはなくて、おかしい。
「何か、その粗相を……」
まだ何か言おうとするその人に、はあ、と今日も一緒にお城散歩をしていた香月がため息を吐いた。
「晦さま。もう無理かと……」
「あ? 香月、お前。お前が話しかけたらもうあかんやん」
「いえ、あの、捕まった時点でもうあかんでしょ……」
「いいや、まだいけた。なんやこう、もうちょっと話をして油断を誘ってやな」
香月は、もう一度ため息を吐く。
いけるわけないよねえ。じいやに捕まって、いや、認識されて、逃げられるわけがない。
ててっ、と亀吉がその人に近寄って、顔を覗き込んだ。
「ちゅももい? おお、ちゅももい」
西賀国の人。亀吉と香月が知っている人。
じいやから、逃げられそうだった人。
じいやがにんまり笑った。
「みいつけた」
1,248
お気に入りに追加
5,084
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる